「交際女性・妻殺人事件」の概要
2010年5月5日、静岡県御殿場市で競売中の家の物置から、若い女性の遺体が発見される。
女性はこの家の持ち主、桑田一也の ”現在の妻” だった。桑田は最初の妻に秘密で離婚届を出し、その後、結婚したこの女性を殺害していた。
そして、桑田逮捕の報道を見てひとりの中年女性が驚く。この男は「失踪した娘がかつて交際していた男」だったからである。こうして女性2人の殺害が発覚した桑田だが、裁判で死刑が確定する。
競売中だというのに、物置の遺体を放置したのには理由があった。なぜなら、そのころ桑田は詐欺事件で逮捕されて、どうにもできなかったのだ。
事件データ
犯人 | 桑田一也(当時39歳) |
犯行種別 | 連続殺人事件 |
犯行日 | 2005年10月26日、2010年2月23日 |
犯行場所 | 静岡県沼津市、静岡県駿東郡清水町 |
殺害者数 | 女性2人(交際相手と妻) |
判決 | 死刑:東京拘置所に収監中 |
動機 | 金銭トラブル |
キーワード |
「交際女性・妻殺人事件」の経緯
2000年12月、静岡県御殿場市萩原に自宅を新築した桑田一也は、リフォーム業を始めて妻や子どもたちと暮らし始めた。
ところが2002年、風俗店従業員の日比野かおりさん(22歳)と知り合い交際を始める。かおりさんは、これが不倫であることはわかっていたが、2人は沼津市西椎路のアパートで暮らすようになった。
彼女は22歳と若かったが、風俗店勤務ということもあって金銭的には余裕があった。桑田はそんなかおりさんの銀行口座から勝手に金をおろすようになり、その借金額は2年半で990万円にまで膨らんでいた。
しかし、桑田はいつまでたっても金を返そうとはせず、2人の関係はこじれていく。返済を求めるかおりさんの言葉も次第にきつい口調になっていき、ある時「返さないなら警察へ行く」というようになった。
そんな2005年10月のある日、桑田はかおりさんに2000万円の貯金があることを知ってしまった。そこで彼はある解決策を思いつく。この方法なら警察に通報されることもなく、金を返す必要もない。それどころか、2000万円も自分のものにできる ”ただひとつの方法” だった。
日比野かおりさんを殺害
かおりさんの預金額を知った翌日の2005年10月26日、桑田は寝室で馬乗りになってかおりさんを絞殺。遺体はビニールシートにくるんでドラム缶に入れ、かおりさんのアパートから数100m離れた友人所有の空き地に放置した。
友人には、中身は「肥料にするための土」と説明したうえで、「日光に当ててはいけないから蓋を開けるな」と釘を刺しておいた。
桑田はかおりさんの預金口座から355万円を引き出し、その後も委任状を偽造して合計で約2000万円を引き出した。その金は自身と妻子の生活費、そして遊興費に消えた。
かおりさんの携帯には母親からメールが届くことがあったが、桑田は彼女の死を偽装するため、かおりさんを装って返信するなどしていた。しかし、メール以外で連絡がつかないことを不審に思った母親は、2006年8月15日、御殿場署に捜索願を提出した。
久松紘子さんを殺害
2008年12月、桑田は久松紘子さん(25歳)と知り合い、交際を始める。その半年後の2009年6月に桑田は離婚届を偽造して妻との離婚を成立させ、10月には紘子さんと入籍した。紘子さんの2人の子供とも養子縁組をして、11月頃から清水町久米田のアパートで新生活を始めた。
当初は問題なく暮らしていたが、やがて桑田は暴力をふるうようになる。桑田は仕事の収入がほとんどなく、生活費をせがまれることにイライラしていたのだ。紘子さんは2010年2月3日、静岡県東部児童相談所に、「夫の暴力から逃れたい」と桑田の暴力について相談している。
2010年2月23日、いつもの生活費をめぐる口喧嘩の最中、桑田はカッとなって紘子さんの首を絞めて殺してしまう。遺体は車で元妻らが住む御殿場市の家に運び、ビニールシートにくるんで物置の奥に隠した。
桑田は、紘子さんとの結婚後もたびたび元妻宅に帰っていて、それが気に入らない紘子さんは無言電話をかけることがあった。生活費を出さない桑田に対して「元妻に電話して出してもらう」と挑発することもあったそうだ。
また、元妻は桑田が逮捕されるまで、自分たちが離婚していることは知らなかったという。
詐欺事件で逮捕
2010年3月3日、桑田は紘子さんとの離婚届を提出し、連れ子の養子縁組も解消。この時、殺害から10日が経っていた。3月26日には紘子さんの母親が、静岡県警・大仁署に紘子さんの捜索願を提出した。
離婚届を出した5日後、遺体を隠した御殿場市の家は、ローンの支払いが滞ったため競売にかけられることになった。家が売れてしまえば、紘子さんの遺体が見つかるのは時間の問題だった。
そんな切羽詰まった状況の中、4月12日に桑田は詐欺容疑で逮捕される。彼は知人の男らと共謀し、60代の知人女性を相手に振り込め詐欺で92万円を騙し取ったのだ。
桑田はこの知人女性から、約4000万円の借金をしていた。
清掃業者が遺体を発見
4月下旬には、元妻ら家族は競売にかけられた家を出て行った。紘子さんの遺体は、当然そのまま物置の奥に残されたままだったが、詐欺事件で逮捕された桑田にはどうすることもできなかった。
5月5日午前9時50分頃、この家の片付けをしていた清掃業者が紘子さんの遺体を発見、業者が110番通報したことにより事件は発覚した。静岡県警・御殿場署は、指紋から遺体の身元を久松紘子さんと特定。7日、死体遺棄の疑いで桑田を逮捕した。
逮捕の報道を見た日比野かおりさんの母親が、失踪当時、娘と交際していた男であることを警察に相談。その後の調べで、桑田がかおりさんの口座から現金を引き出していたことがわかった。
そして8月12日、桑田の自供により、沼津市の空き地でドラム缶に入ったかおりさんの遺体を発見する。翌日、桑田はかおりさん殺害の容疑でも逮捕された。
日付 | 出来事 |
---|---|
2000.12 | 家を新築してリフォーム業を始めるも仕事ほぼナシ |
2002 | 日比野かおりさんと不倫、同棲開始 |
2002~2005 | かおりさんの口座から勝手に990万円使い、責められる |
2005.10.26 | かおりさんが2000万円もっていることを知り殺害 偽造した委任状でかおりさんの貯金2000万円を着服 |
2008.12 | 久松紘子さんと交際開始 |
2009.6 | 離婚届を偽造して妻に秘密で離婚、紘子さんと再婚 離婚を知らない元妻と紘子さんの間で二重生活 |
2010.2.23 | 仕事がなく生活費が出せず、紘子さんに責められて殺害 かつての自宅(元妻ら在住)の物置に遺体を隠す |
2010.3.3 | 紘子さんとの離婚届提出 |
2010.3.8 | 家のローンが払えず競売にかけられる |
2010.5.5 | 清掃員が紘子さんの遺体発見、2日後、桑田は逮捕 |
2010.8.12 | かおりさんの遺体発見、桑田は翌日再逮捕 |
裁判
公判は静岡地裁にて「裁判員裁判」で行われた。
起訴内容に争いはなく、強盗殺人事件の犯行意図などの情状面が争点となった。
2011年6月13日の初公判で、桑田一也被告は起訴事実を認めた。
日比野かおりさん殺害について
検察側は冒頭陳述で、不倫相手の日比野かおりさんから、990万円の返済を迫られた桑田被告が、「かおりさんを殺せば警察に行かれることもなく、返済も迫られない」と考え犯行に及んだと指摘。かおりさんの母親からのメールに返信するなど、生きているように装ったと悪質性を主張した。
弁護側は、殺人の動機について、「(かおりさんを)警察に行かせたくない」と強く思ったと説明。その後に得た金も「殺して手にしようと思っていたわけではない」と主張した。
15日の論告で検察側は、桑田被告がかおりさんの貯金990万円を勝手に引き出した上、返済を免れようと殺害し、さらに口座から約2358万円をだまし取ったと指摘。「被害者に多額の貯金があることを知った翌日に犯行に及ぶなど、動機は非人間的で身勝手。犯行は強固な殺意に基づき、冷酷かつ残虐だ。遺族も極刑を望んでいる」と述べた。
弁護側は最終弁論で、借金を返さない桑田被告が、かおりさんに「警察に行って話す」と言われたことが動機とするなど、計画性を否定。そして「いずれの殺害も家族を思いやり、追いつめられ犯行に及んだ。犯行に計画性がなく、殺害方法はことさら悪質ではない。生涯をかけて罪を償い、反省させるべき」と主張し、無期懲役にするよう求めた。
紘子さん殺害について
14日の公判で検察側は、桑田被告が当時の妻・紘子さんと生活費などをめぐって口論になり、彼女が御殿場市に住む桑田被告の元妻に「金を出してもらう」と言い出したことから、桑田被告が別れ話を切り出したと指摘。「桑田被告は『妻がいなければ、元妻宅の家族を傷つけなくて済む』と考えた」と主張した。
弁護側は、「妻の紘子さんは、桑田被告が生活費を出せなかったりすると、元妻宅に無言電話をかけるなどの嫌がらせをしたため、追いつめられた末の犯行だった」と主張した。
桑田被告は「どういう処罰で償ったことになるのか分からないが、死ぬことでそれがかなうなら、それが自分にふさわしいと思う」と述べ、傍聴席の遺族に向かい「本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
第一審判決は死刑
2011年6月21日の第一審判決で、静岡地裁は桑田被告に死刑を言い渡した。
裁判長は殺害動機について、「身勝手極まりなく、経緯、動機に酌量の余地はない」と切り捨てた。
桑田被告は、紘子さんの殺害動機について「(元の)家族を傷付けたくなかった」と証言していた。
殺害後にかおりさんの貯金を盗み取っていることや、生きているように偽装したメールを母親に返信したことなどについて「良心の呵責は伺えず、生命軽視の態度には根深いものがある」とした。
また「計画性は認められないが、突発的であることを強調するのは相当ではない」とした。そのうえで、「桑田被告に有利な一切の事情を考慮しても、極刑をもって望むほかない」と断罪した。
弁護側は即日控訴した。
控訴審:控訴棄却
2012年3月13日の控訴審初公判で、弁護側は事実誤認などを理由に死刑回避を求め、検察側は控訴棄却を求めた。
4月24日の第2回公判で、桑田被告は日比野かおりさん殺害について、「借金の返済を免れることが殺害理由ではない」と述べた。一審で強盗殺人の成立を認めた点を指摘されると、「調書は警察から促されて作成された。一審判決前の妻と子供との面会をきっかけに、控訴審では真実を話そうと思った」と答えた。
6月7日の最終弁論で弁護側は、かおりさん殺害について「一審の供述は捜査機関による誘導だった。借金返済に窮して殺害したのではなく、家族に不倫が発覚することを恐れての突発的な犯行」と主張。強盗殺人罪ではなく、殺人罪の成立を改めて訴え、極刑の回避を求めた。
検察側は「結果的に借金の返済を免れ、殺害後もかおりさんの貯金を無断で使用している」と指摘。「殺害理由の供述の変化に合理性はなく、信用できない」と反論し、控訴棄却を求めた。
2012年7月10日の判決公判で、東京高裁は一審の死刑判決を支持、弁護側の控訴を棄却した。
裁判長は、殺害動機について「借金返済に窮して殺害したのではない」という弁護側の主張を退け、「好き勝手な女性関係を続け、都合が悪くなると邪魔者とみて殺害した」と指摘。
「身勝手な動機で情け容赦なく2人の首を絞め続けており、冷酷、残虐な犯行だ。殺害後も女性の預貯金2千万円余りを引き出すなど強い非難に値する」と述べ、一審の死刑判決が重すぎるとは言えないと結論付けた。
最高裁:死刑確定
2014年10月21日の最高裁弁論で、弁護側はかおりさんの殺害について「計画性のない突発的な犯行で、残虐とはいえない。借金返済を免れるためでもなく、強盗殺人罪は成立しない」と死刑回避を主張。
検察側は「突発的ではあるが、強い殺意に基づく残虐な犯行で、被害者の無念さは筆舌に尽くしがたい。借金を巡る口論に端を発しており、返済を逃れようとしたのは明らか。金銭トラブルの末に殺害するなど冷酷かつ残虐」と上告棄却を求めて結審した。
2014年12月2日、最高裁判決で裁判長は「最初の犯行は、桑田被告が経済的援助を受けていたかおりさんを裏切って、大金を使い込んだのが原因。その4年4か月後には妻・紘子さんを殺害しており、いずれも犯行の経緯や身勝手な動機に酌むべき点はない。強固な殺意に基づく残酷な犯行で、若い女性2人の生命が奪われた結果は重大。殺害は計画的でないことや反省している点など、被告に有利な事情を考慮しても、死刑とした一審判決を認めざるを得ない」と述べた。こうして桑田被告の死刑が確定した。
現在、桑田一也死刑囚は東京拘置所に収監中である。