姫路パチンコ経営者3人殺害事件|実行犯のみ死刑のねじれ判決

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中村春根・上村隆/姫路パチンコ経営者3人殺害事件 日本の凶悪事件

「姫路パチンコ経営者3人殺害事件」の概要

トラブルになった相手を拉致・監禁のうえ殺害した陳春根(通名:中村春根)とその部下たち。3人の男性を殺害したとされているが、うち2人の遺体はみつかっていない。
そんな事情もあり、主犯の陳春根には被害者1人について無罪が認定され、無期懲役が確定した。しかし実行犯の上村隆の公判では、3人すべての殺害に関与したとして死刑が確定。主犯より実行犯の刑が重くなる、ねじれ判決となっている。

事件データ

主犯陳春根(逮捕時39歳)通名:中村春根
読み:チン・シュンコン
判決:無期懲役
実行犯上村隆(逮捕時44歳)
判決:死刑
犯行種別殺人事件
犯行日2010年未明、2011年2月11日
犯行場所兵庫県姫路市
被害者数3人死亡
動機父の死の報復、その他
キーワード韓国籍、パチスロ「姫路サルーン」

事件の経緯

山健組 村正会は、姫路を拠点に活動する暴力団である。当時の組長は二代目・小山顕治で、彼はある人物に目を付けていた。それは地元で大きな力を持つ国際会館グループ会長・陳道夫(通名:中村道夫)さんで、国際会館は主にパチンコ・パチスロの店舗を経営していた。

陳春根(中村春根/)姫路パチンコ経営者3人殺害事件
陳春根(通名・中村春根)

小山組長は、道夫さんに執拗に因縁をつけて嫌がらせをしたり、金を脅し取るなどしていた。これに腹を立てた道夫さんの息子・陳春根(通名:中村春根)は、報復として小山組長に腕の骨を折るなどの暴行を加えた。これに小山組長側は黙っておらず、慰謝料として数億円を要求してきた。

しかし、道夫さんはこれを拒否。こうなると、ヤクザが黙っているはずがなかった。ある日、道夫さんは姫路の繁華街「魚町」で、村正会組員・下山誠也にゴルフクラブで頭を何度も殴られる事件が起きた。この時、道夫さんは逃げる下山を追いかけようとするも、倒れてそのまま死亡した。

その後、下山は警察に自首し、実刑判決を受け刑務所に服役となった。

下山誠也は2009年2月、女子中高生らを無許可でキャバクラやスナックにホステスとして派遣していたとして、労働者派遣法違反の疑いで逮捕された前科がある。

トラブルのあった男性2人を殺害

東京都世田谷区の広告制作会社「ネクスト」社長・前田巌さん(当時50)は、陳春根から10億円の融資を受けていた。だが返済が滞っており、これに業を煮やした春根は、2009年4月、東京都内の事務所から前田さんを連れ出し、兵庫県の姫路に連れて来た。

それから2010年6月までの1年2か月の間、前田さんは姫路市広畑区にあるマンションの一室で、檻の中に監禁され、最後は陳春根の部下である上村隆(当時43)が拳銃で射殺した。

その翌年、春根らは別の男性も殺害している。
2010年4月13日午後6時50分頃、姫路市のパチンコ店駐車場で、トラブルのあった韓国籍の村正会幹部「富田」こと元暴力団員・巌大光さん(当時57)を無理やり乗用車に押し込んだ。そして兵庫県三木市の倉庫で監禁し、手足や口などを粘着テープで縛って窒息死させた。

前田さんと巌さんの遺体はみつかっていない

一方、服役していた下山誠也(当時37)は、2010年9月28日早朝に出所となった。その直後、下山は姫路市内の路上で春根とその手下により拉致され、三木市細川町の倉庫に監禁された。

だが、この時は自力で脱出することができ、警察に駆け込んだ。こうして、しばらくは警察の保護下にあった下山だが、それが解除となった途端の2011年2月10日、再び姫路市の自宅マンション敷地内から車で拉致されてしまう。

元暴力団員を絞殺

姫路パチンコ経営者3人殺害事件

下山が発見されたのは、拉致された翌日(2月11日)の午後10時20分頃。場所は拉致現場となった自宅マンションから、西に約8kmの姫路市飾磨区今在家だった。下山は路上に駐車中の保冷車内で、毛布にくるまれた遺体でみつかった。顔には殴られたような痕があり、両手首・両足首に紐のようなもので縛られた痕が残っていた。

姫路署によると、10日午後6時過ぎ、「助けを求める男性の声を聞いた」という110番通報があり、調べていた県警の捜査員により遺体は発見された。目撃証言から下山は午後5時40分頃、帰宅したところを黒っぽい車(保冷車)で連れ去られたという。死亡推定時刻は11日午前、保冷車の荷台コンテナ内で首を絞められ窒息死したとみられた。

県警暴力団対策課と姫路署は2月12日、殺人・死体遺棄・監禁などの容疑で同署に捜査本部を設置した。下山は約1年半前まで暴力団に所属していた。

上村隆/姫路パチンコ経営者3人殺害事件
上村隆

上村隆は4月28日午後4時頃、広島市内のビジネスホテル駐車場にいるところを捜査員に発見され、逮捕監禁致傷容疑で逮捕された。12月26日には主犯格の陳春根(中村春根)が、大阪市淀川区のホテルで逮捕された。

一連の事件で2014年頃までに逮捕されたのは、計16人にものぼる。その中には、犯行グループに使わせる目的で別の契約者名義で携帯電話を契約させたとして、陳春根の弟である陳光根も含まれている。光根は2011年6月、東京都内で知人女性に依頼し、プリペイド式携帯電話3台を女性名義で契約させていた。

警察は、殺害行為に関わったのは陳春根と上村とみて追及するも、春根は否認、上村は「徐々にお話しします」と認否を明確にしなかった。だが2013年11月、2人は下山の殺害に関与したとして起訴された。 

陳春根が経営の裏物パチスロ店「サルーン」

「姫路サルーン」姫路パチンコ経営者3人殺害事件
裏物パチスロで有名だった「姫路サルーン」

陳春根は、パチンコ・パチスロ店などを経営する国際会館グループ会長・陳道夫(通名:中村道夫)さんの長男で、パチスロ店「姫路サルーン」を経営していた。「姫路サルーン」は違法な裏モノのスロット専門店で、2005年から約5年間営業していた。

パチスロの裏モノとは?

裏モノとは、基盤を不正に改造したパチスロ台のことである。一度当たりを引けば驚くほどの連チャンが続き、1日で1万~2万枚出るのだという。しかし、当たらなければ数万円から10万円以上の金が、あっという間に消えてしまうとてもギャンブル性の高いものだった。

当時、姫路は裏モノのメッカと言われており、全国からファンが足を運ぶエリアだった。しかし警察による取り締まりが強化され、そういった裏モノを設置する店舗が減るなか「サルーン」はなぜか最後まで裏モノを設置し続けた。

姫路サルーン

サルーンでは「ファン感謝デー」というものがあり、くじ引きでアウディやベンツなどの高級外車が当たったり、法律で禁止されている酒も提供されていた。そして、店内をバニーガールが歩くのもウリのひとつだった。

しかし、そんな違法経営がいつまでも許されるはずもなく、2010年5月26日の兵庫県警の捜索で不正改造用の電子部品384個が押収され、これを機に廃業となった。

裁判

この裁判は起訴から初公判まで6年以上かかり、公判前整理手続きは72回、裁判員の候補となった約500人のうち約420人が辞退した。検察と弁護側双方が申請した証人は120人以上で、判決までに207日かかるなど裁判員裁判としては最長となった。

韓国籍の陳春根被告は、本事件に関して計12回起訴されていたが、2018年4月16日、裁判員裁判の初公判が、神戸地裁姫路支部で開かれた。

被害者3人のうち、拳銃で射殺したとされる前田巌さんと、監禁中に死亡したとされる厳大光さんの遺体が見つかっておらず、前田さんの事件では凶器の拳銃も見つかっていない。そして陳被告は、審理対象となる全7事件で起訴内容を否認した。

検察側は「自ら経営するパチンコ店の関係者を暴力などで支配し、自分の手を汚さず配下の者に犯行を指示した。陳の父親の死にまつわる怨恨や、陳が広告会社に融資した資金の返済遅れなどのトラブルが事件の原因であり、陳が事件の首謀者だ」と主張した。

一方、弁護側は「仮に監禁や殺害などが行われたとしても、陳は現場におらず、指示もしていない。捜査機関は、全事件が陳の首謀と決めつけて捜査をした」と主張した。

2018年10月15日の論告求刑公判で、検察側は「強固な殺意に基づく計画的かつ執拗な犯行で、類を見ない凶悪性だ。罪証隠滅を繰り返し、無反省な態度で更生意欲も認められず、極刑以外は考えられない」と死刑を求刑した。弁護側は、1件の逮捕監禁罪のみ起訴事実を認め、それ以外は無罪だとして、「懲役3年にとどまる」と主張した。

陳に無期懲役

2018年11月8日の判決公判で、神戸地裁姫路支部は陳被告に無期懲役を言い渡した。

裁判長は「遺体が見つかっていない元暴力団組員については、倉庫の焼却炉から骨が見つかり血痕もあった」と指摘。2人の元暴力団組員に対する殺人と逮捕監禁致死の罪については認められるものの、会社社長を殺害したとされる罪については、客観的な証拠が乏しかったため無罪と判断した。
裁判長は最後に陳被告に対し、「あなたには償わなければならない罪がある」と話した。

上村隆の公判

一方、上村隆被告は、陳春根被告らと共謀して元作業員の下山誠也さん、元会社社長の前田巌さん、元暴力団員の厳大光さんを監禁・殺害した実行犯として起訴された。

2019年2月7日、上村隆被告の裁判員裁判の論告求刑公判が神戸地裁姫路支部で開かれた。検察側は当時控訴中の主犯格の陳春根被告からの報酬を目当てにした犯行としたうえで、「肉体的にも精神的にも屈服させ、3人の命を奪った。人間の尊厳を踏みにじる冷酷で悪質な犯行」と死刑を求刑した。

2019年3月15日、神戸地裁姫路支部は求刑通り死刑を言い渡した。裁判長は「刑事責任は極めて重大で、死刑を回避すべき事情も見いだせない」と述べた。

この裁判の期間は166日。裁判員裁判としては、過去最長の207日間に及んだ陳春根被告の裁判に次ぐ2番目の長さとなった。

上村被告の弁護側は控訴したが、2021年5月19日、大阪高裁は死刑とした神戸地裁姫路支部の判決を支持し、控訴を棄却した。

殺人罪に関し弁護側は、陳春根被告に指示されたとして「上村被告は従属的な関与だった」と死刑回避を求めていた。しかし、裁判長は「強固な殺意が認められ、自らの意思で犯行に関与した」と認め、陳被告とは関係証拠や犯罪事実などの前提条件が異なるとして死刑が相当と結論付けた。

判決のねじれ

陳被告の第一審判決では、元会社社長の前田巌さん殺害について「遺体が見つからず死因も不明で、犯罪の証明がない」として無罪と認定し、無期懲役を言い渡していた。しかし、上村被告の判決では、この事件についても上村被告や陳被告が関わったと判断され、死刑判決となった。

同じ事件を裁いているのに判決が異なるねじれ現象は、最後まで続いた。陳被告はその後、2021年1月28日の控訴審判決公判で控訴棄却となり、2022年10月12日には上告も棄却された。これにより、一審・二審の無期懲役判決が確定した。

一方、上村被告は前述の通り、2021年5月19日に控訴が棄却され、死刑判決となっている。そして2023年7月3日、注目された上告も棄却となり死刑が確定。こうして「主犯は無期懲役、実行犯のみ死刑」という、めずらしい結果となってしまった。

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