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日本の極刑「死刑」について

踏板が開いた刑場 犯罪データ

死刑の実態

日本の極刑は死刑です。
死刑の是非については議論が尽きないところですが、「極刑は死刑」と憲法で決められています。
死刑が確定した人は、刑が執行されるまで日本に7か所ある拘置所に収監されることになります。
そして死刑確定囚は、その日まで刑務などを行う義務はありません。

なぜなら死刑囚にとっての刑は、あくまで「死刑が執行」されることだからです。

では、いつ執行するかというと、法律上は特別な理由のない限り、死刑判決が確定してから6か月以内に執行することになっています。しかし実際には、執行までに平均8~10年かかっているのが現状です。
極めて残虐な犯行で、本人が望んだケースでも1年~3年、長い場合は半世紀ほど執行されない例もあります。ただ、法務大臣が執行命令書にサインしてから5日以内に執行することが定められていて、こちらは厳格に守られているようです。

死刑に反対?賛成?

死刑の賛否

・死刑もやむおえない・・・80.8%
・死刑は廃止すべき・・・9.0%
・わからない・・・10.2%
内閣府が発表した死刑制度に関する世論調査|2019年度

2019年に内閣府が発表した「死刑制度に関する世論調査」では実に8割の国民が死刑を支持しています。この調査は5年ごとに発表されています。死刑に代わる「終身刑」の導入も議論されていますが、遺族感情や費用などの問題があり、支持されるには至っていないのが現状です。

全国に7か所ある刑場

2023年9月現在、日本には刑場が7か所あり、107人の死刑囚が収監されています。
(確定死刑囚は108人だが、袴田巌さんは現在拘置執行停止中のため、収監されていない)

拘置所名所在地人数男性女性
札幌拘置支所 北海道210
仙台拘置支所 宮城県440
東京拘置所 *東京都49472
名古屋拘置所 愛知県11101
大阪拘置所大阪府20182
広島拘置所広島県550
福岡拘置所福岡県17152

1945年~1963年まで東京拘置所は「巣鴨プリズン」として接収されていたため、東京管内の死刑執行は宮城刑務所で行われていた。

死刑囚の人数に関するデータ

戦後の1946年以降に死刑が確定した人数は816人、そのうち執行された人数は703人。
(期間を1993年3月26日以降に絞ると、死刑被執行者は130名。病死34名。自殺2名。)

2023年12月8日現在の確定死刑囚 108名(うち女性7名)

年代人数男性女性
30代11110
40代18171
50代31310
60代18144
70代26242
80代330
90代130

死刑執行人数が一番多かった年は2008年2018年でともに15人
(2008年の法務大臣は鳩山邦夫、2018年はオウム関連死刑囚の執行が13人)

永山基準:最高裁が示した死刑適用基準

犯行が残虐であると判断された場合、判決は死刑となる可能性が高まります。一般的には殺害被害者数が1人なら無期懲役以下、3人なら死刑。2人がボーダーラインという不文法があります。

これは「永山基準」といって、1983年に最高裁判所が初めて詳細に明示した死刑適用基準です。
1968年(昭和43年)10月~11月に東京都・京都府・北海道・愛知県の4都道府県で発生した永山則夫連続射殺事件における判決が元になっています。

昭和58年(1983年)に生まれたこの基準は、令和になった現在も強い影響力を持っています。殺害被害者がひとりの場合、よほど残虐性の高い事件でなければ死刑はほぼ回避されてしまうのが現状です。

最近では裁判員裁判でこの基準に影響されない死刑判決が出ることもあります。
しかし、高裁によってこの基準が持ち出され、判決が覆されることも多く、裁判員裁判の意義が問われています。

この基準は以下のような内容です。

永山基準

永山基準は以下の9項目からなる死刑の適用基準である。
1.犯罪の性質
2.動機、計画性など
3.犯行態様(執拗・残虐性など)
4.結果の重大さ(特に殺害被害者数
5.遺族の被害感情
6.社会的影響
7.犯人の年齢(犯行時に未成年など)
8.前科
9.犯行後の情状動機

<殺害被害者数>1人:無期懲役以下 3人以上:死刑 2人:ボーダーライン

*あくまで基準なので、例外はあります。

死刑囚の生活

拘置所の独居房
この狭い部屋で1日のほとんどを過ごす

死刑囚は全国7か所の拘置所に収監されていますが、基本的には同じルールで生活します。(細かい点が拘置所によって違う場合あり)

衣食住

死刑囚の部屋は3畳ぐらいで、決して広くはありません。ここで1日の大半を過ごします。

食事は1日3回で、きちんとカロリー計算や栄養量がされたものが出ます。3食で2220kcal(主食1200 kcal、副食1020 kcal)が摂れるようになっています。

服装は刑務所のような囚人服ではなく、私物の服を着ます。色・柄などある程度自由ですが、禁止されているものもあります。

髪型も基本的には自由ですが、ある程度の清潔感を保つ必要があります。

  • 長い紐(35cm以上)が付いたもの → 自殺防止のため
  • 大きな金属類が付いたもの → 危険なため
  • フードのついたものもの → 様子がわかにくくなるため
  • ダメージジーンズのように破れたもの

死刑囚が室内に持ち込める私物は、約120リットル分までと定められています。(許可されたものに限る)このほか、1個当たり55リットルのコンテナ(プラスチック製ケース)を3個まで「領置品倉庫」に預けられます。

死刑囚の1日

起床時間は午前7時、就寝は午後9時と決まっています。
食事は3回で、朝食は午前7時30分頃、昼食は午前11時50分頃、夕食は午後4時30分頃からです。
運動は1日約30~40分、コンクリートと網に囲まれた鳥小屋のような運動場で単独で行われます。
希望すれば縄跳びなどが出来ます。

入浴は夏場は週3回、冬場は週2回。原則1回につき男性が15分間、女性が20分間とのこと。

それ以外はまったくの自由時間なので、読書や写経、趣味で絵を描いたり短歌や俳句などの活動も可能です。許可される範囲であれば、お菓子やコーヒーなども飲食できます。買うお金がなければ、簡単な作業をすることで小遣い程度の金を稼ぐことができます。
再審請求の準備なども、この時間に行います。

ただ、外部との交流は厳しく制限されます。面会や文通は、基本的に親族か弁護士に限られます。また、横臥(横になること)にも許可が必要で、ちょっと疲れたからといって勝手に寝転んだりできません。

反省や後悔の念から、キリスト教などの宗教に目覚める死刑囚もいます。宗教活動をすることによって定期的に教誨師と面会できます。これは房の外に出る機会がほとんどない死刑囚にとって、気晴らしになるようで、宗教に興味がなくても教誨を受けることも多いそうです。

宗教にふれるうちに考え方が変わり、心の底から反省して本物の宗教家になる死刑囚もいます。

死刑の告知

凶悪事件を起こしておきながら、一見ゆるい生活が許されているように見えますが、毎日1回ヤマ場を迎えます。朝食を終えた後の午前8時頃、死刑囚に緊張の時間がやってくるのです。
普段と違う複数人の足音が聞こえたら・・・そしてそれが自分の房の前で止まったら・・・。
それは、死刑執行の告知かもしれません。

現在、この告知は当日と決まっています。以前は前日(または前々日)に告知した時期もあり、親族と最後の別れを交わすことも可能でした。ところが、あまりの恐怖に耐えられなかった死刑囚が、自殺した例があったために廃止されたそうです。

しかし、職員が休みの土日や年末年始などは執行は行われないので、金曜の朝8時をやり過ごせば、月曜の朝8時までは安心して過ごすことができます。
この毎朝8時の「魔の時間」の恐怖に耐えられなくなると、拘禁ノイローゼを発症する者が出てきます。

死刑執行の流れ

午前8時、複数の足音が近づき、房の扉が開けられたら、それは死刑執行の告知の瞬間です。
告知された受刑者は、すぐに房から出されることになります。中には激しく抵抗する者もいますが、両脇を抱えられ力づくで連行されます。

教誨室

房から出ると、まずは教誨室に連れて行かれます。そして拘置所長が死刑執行命令書の到達を、正式に受刑者に伝えます。そのあと、希望者は遺書を書いたり、お菓子や果物を食べることができます。

教誨師が仏前で読経します。祭壇は受刑者の信仰に合わせて十字架や神棚へと切り替えられます。

刑場へ

刑場
ボタンを押すと中央の踏板がバタンと下に開くようになっている

それが終わると、いよいよ刑場に行くことになります。受刑者は後ろ手に手錠をかけられ、目隠しをされ、踏板まで進みます。

踏板まで進むと、首にロープがかけられます。

準備が整ったら死刑囚へ言い残したことはないかを確認します。

死刑執行ボタン

それを終えると同時に合図が出され、死刑執行ボタンが押されます。ボタンは処刑場から離れた場所にあるため、これらの担当者は処刑の瞬間を見ることはありません。またボタンは複数あり、誰が実際に踏板を開けたのか、本人たちにもわかりません。

刑場

医師が絶命を確認してから5分後、遺体が床に下ろされ棺に納められます。

執行の役目は当日言い渡され、手当は2万円とのこと。この役目を終えると、その日はもう帰っていいそうです

なぜ死刑囚は無罪を主張するのか?

控訴、上告を経て死刑が確定すると、刑の執行を待つことになります。
この段階で「悪いことをしたから死んで当然」と考える死刑囚は少数派です。
ほとんどの死刑囚は死にたくないので、少しでも刑の執行を引き延ばそうとして再審請求をします。
そして無罪を主張するのですが、そうしているうち、自分でもそれを信じてしまう無罪妄想の症状がでることがあります。(拘禁ノイローゼ)
この症状が出ている死刑囚と話すと、真顔で無罪主張するので信じそうになるそうです。

ちなみに、再審請求中は刑の執行がされないというのが定説ですが、実際は請求中に執行された例もあります。

死刑囚の拘禁ノイローゼ

死刑囚の精神状態は、普通の暮らしをしている我々には想像できません。

3畳ほどの監視カメラ付き独房に1日中閉じ込められ、運動は1日30分程度、外部との接触は親族との面会(1日1回30分以内)のみとなります。
日中は、自由に横になることも禁じられています。(許可が必要)
希望すれば簡単な内職ができる場合もありますが、子供の小遣い程度にしかなりません。
そしてなにより、明日の朝にも死刑が執行されるかもしれない恐怖に毎日怯えているのです。
それを何年も繰り返しているうちに、拘禁ノイローゼ(拘禁反応・拘禁症状)が出ることがあります。

拘禁ノイローゼとは、強制的に自由を抑圧される環境に置かれた人の人格が変化することです。
刑罰が重いほど、症状が出やすくなる傾向が高いそうです。

症状名症状
原始反応1
(爆発反応)
突然、憤怒の発作を起こし、極度の混乱におちいり、無目的な運動を乱発して暴れまわる。
壁や扉を乱打し、器物を破壊し、看守につかみかかってくる。
顔は真っ赤になり呼吸はあらく、ガラス片などで体を傷付け血まみれになる。
たいていは1~2時間で収まるが、2~3日かかることもある。
発作が収まった時、本人は何もおぼえていない。
原始反応2
(無反応)
まったく死んだように動かなくなってしまう。
動物や昆虫が死んだふりをする擬死反射に似ている。
呆然と立ち尽くしたり、倒れたまま動かなくなる。
外部の刺激に反応しないが、脈や呼吸には異常がない。
ガンザー症候群質問の内容は理解しているのに、ずれた答えやばかげた応答をする。
わざとのようにも見えるが、そうではない。
多くの場合、意識障害、幻覚性錯乱、夢幻様状態などを伴う。
ぼんやりした表情と力のない態度が特徴的。
長期間継続することは少ない。
各種妄想人によって違うが妄想全般。
「自分は無罪である」
「罪が許され、身元引受人が迎えに来る」
「権利が侵害されていると思い込む」など
躁・うつ異常なまでに気分が落ち込んだり、逆に上機嫌で大声で話したりする。
躁とうつがめまぐるしく変わることもある。
参考文献:死刑囚の記録/加賀乙彦著など
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松本智津夫元死刑囚や武富士強盗放火殺人事件の小林光弘が、無反応状態の時期があったといわれています。(トイレさえ行かなくなるので、看守側も大変)
数時間から数日で元に戻ることが多いですが、何年も症状が続く場合もあるそうです。

袴田事件/袴田巌さん
拘禁症状がひどい袴田巌さん

2014年に死刑執行停止となり、釈放された袴田事件袴田巌さんも、何十年も拘置されているうちに拘禁症状を発症し、現在に至るまで症状が続いているそうです。袴田さんは妄想の世界に生きている状態のようで、意味不明な発言や、独房にいるかのように同じ場所を行ったり来たりする行動を毎日繰り返しています。

刑の執行よりも、このような極限状態で何年も生きること自体が、「刑」なのではないかという意見もあります。

死刑執行前の死刑確定囚たち

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