マニラ連続保険金殺人事件(2014)|無罪主張も一・二審死刑

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岩間俊彦・久保田正一・菊池正幸/マニラ連続保険金殺人事件 日本の凶悪事件

「マニラ連続保険金殺人事件」の概要

2014年から2015年にかけ、知人男性と元同級生を保険金目的でフィリピンで殺害したとして、日本人の男3人が逮捕された。主犯とされる岩間俊彦(当時42歳)は、「証拠のLINEのやりとりは、なりすましによるもの」として、無罪を主張するも一審で死刑。当然のように控訴・上告するが、死刑判決は覆らず、死刑が確定している。(共犯の2人はそれぞれ無期懲役懲役15年が確定)

死刑囚となった岩間はその後の2023年8月24日、収容された東京拘置所で病死が確認されている。

もうひとつのマニラ連続保険金殺人事件(1994)

事件データ

犯人1岩間俊彦(当時42歳)
死刑:2023年8月24日病死
犯人2久保田正一(当時43歳)
無期懲役:確定
犯人3菊池正幸(当時57歳)
懲役15年:確定
犯行種別保険金殺人事件
殺害日
*現地時間
2014年10月18日
2015年8月31日~9月1日
犯行場所フィリピン・マニラ市
被害者数2人死亡
動機保険金目的
キーワード死刑判決、無罪主張

事件の経緯

2014年7月4日、 笛吹市の飲食店経営者・岩間俊彦(当時42)は、山梨県甲府市の久保田正一(当時43)の入院先に見舞いに出向いた。そこで岩間は、建材卸会社を経営する中村達也(当時42)を標的とした保険金殺人の計画を久保田に持ちかけた。

岩間・久保田・中村の3人は、同じ高校の同級生である。

久保田は、膝の手術をしたばかりで今後の仕事に不安があったうえに、「保険金が手に入れば、フィリピンでうなぎの稚魚の事業を始められる」と説得されたことから、この話に乗ることにした。フィリピン人の妻を持つ久保田は、「フィリピンでヒットマン(殺し屋)を雇えるか」と岩間に相談されたが、彼には妻以外にも頼めそうな人物がいた。それはフィリピンで居酒屋を経営する菊池正幸(当時57)で、かつてフィリピンで知り合った男だった。

8月になって岩間は、殺害の対象を中村ではなく、通院していた整骨院(山梨県韮崎市)の経営者である鳥羽信介さん(当時32)に変更した。岩間と鳥羽さんは、過去にあるビジネスを巡ってのトラブルがあった。2012年6月、「山梨の水やワインの販売」を岩間から持ちかけられ、鳥羽さんら数人が台湾に商談をまとめたが商品が届かず、手配役だった岩間と鳥羽さんとの間で代金の支払いなどのトラブルに発展していた。

また、元々の標的だった中村を仲間に加え、中村の会社を保険加入や保険金受け取りに利用することにした。こうして体制が整うと、岩間らは以下のような殺害計画を立てた。

  • 殺害場所はフィリピンの首都マニラ
  • 鳥羽さんには1億円の海外旅行保険に加入させたうえで渡航させる
  • 自分たちは手を下さず、ヒットマン(殺し屋)を雇う

役割は、久保田がヒットマンの手配、岩間と中村が鳥羽さんの保険加入手続きやそれに必要な登記手続きを担当することになった。中村の会社を保険金の受取人にして、岩間と久保田はこの会社の役員になった。

9月16日、岩間は鳥羽さんに、「ひとり300万円ずつ出し合って、自分たちと一緒にフィリピンで新会社を設立しないか」と、架空の計画を持ちかけた。鳥羽さんに出させる300万円は、鳥羽さん自身を殺害するヒットマンを雇う費用などに充てるつもりだった。

翌17日から18日にかけて、LINEのトークルームにて岩間ら3人は「久保田の口座に300万円を振り込んだ」などと、あたかも事業計画が進んでいるような虚偽のメッセージを流して鳥羽さんを信用させた。これに騙された鳥羽さんは、久保田の口座に300万円を振り込んだ。

10月頃、岩間らはLINEで「フィリピンで多数の信徒を抱える神父が、事業計画に興味を示している」などと架空の話を鳥羽さんに吹き込み、鳥羽さんはフィリピンに渡航することに乗り気になった。

さらに10月8日から10日にかけ、岩間ら3人はフィリピンでの活動資金を鳥羽さんから騙し取ることを計画。鳥羽さんは「フィリピンから帰国したら返す」という言葉を信じ、中村の口座に70万円を振り込んだ。

フィリピンで鳥羽さんを殺害

鳥羽信介さんが殺害時に乗っていたタクシー/マニラ連続保険金殺人事件
鳥羽さんが殺害時に乗っていたタクシー

久保田からヒットマンの手配を依頼された菊池は、現地で知人を通じて「前金で20万ペソ、成功報酬としてさらに20万ペソ」という条件で雇うことに成功。(20万ペソは約46万円)彼らはマニラで具体的な犯行手順を打ち合わせした。

  1. 菊池が鳥羽さんをマニラの繁華街からタクシーに同乗させる
  2. ラスピニャス市内の指定の場所に来たら「用を足したい」と言って停車させる
  3. 菊池が降車するとヒットマンが近づき、後部座席の鳥羽さんを射殺する

2014年10月19日、計画通り菊池は鳥羽さんとタクシーに乗った。そして岩間から指定された場所でタクシーを停めさせ、菊池だけ降りた。5mほど離れた木の陰で用を足していると、そこへフルフェイスのヘルメットを被ったヒットマンがオートバイで近づいてきて、タクシーの後ろで停車。ヒットマンは助手席側から運転手に話しかけたあと、午前0時30分頃、後部座席に座っていた鳥羽さんに発砲した。(現地時間18日午後11時30分頃)

胸に2発の銃弾を浴びた鳥羽さんは、市内の病院に搬送されたが胸部臓器損傷により死亡した。カルテには、死ぬ前に鳥羽さんが「イワマトシヒコの名前を繰り返していた」と記載されていた。

鳥羽さん殺害後、岩間らは鳥羽さんの生命保険金を受け取るのに必要な「家族の押印」を得るため、鳥羽さんの遺族と何度も連絡を取るも会うことができず、生命保険金は支払われなかった。このため岩間らは、2015年1月~3月、遺族から貸付金等回収名目で金銭を騙し取ろうと企てた。しかし、遺族の弁護士が岩間の話を信じなかったため、これも失敗に終わった。

仲間の中村も標的に

中村達也/マニラ連続保険金殺人事件
中村達也

2014年12月頃、岩間は菊池を標的とした保険金殺人を考えたが、2015年3月、菊池が音信不通になったためこの計画は断念した。実はこの3月に菊池は山梨県警に出頭し、鳥羽さんの死が保険金狙いの殺人であることを自供していた。だが、警察は「証拠不十分」として菊池を釈放してしまう。このことが、さらなる殺人事件につながっていく。

菊池はこの時、「自分の印鑑証明が使われて、保険金受け取り会社の役員にされていた」こと、「自分にも保険金がかけられていた」ことを警察から知らされた。

菊池を断念した岩間は2015年4月12日、久保田に ”中村を標的した保険金殺人” を持ちかけた。これに久保田は了承し、鳥羽さんの時と同様に久保田がヒットマンの手配、岩間が保険の加入手続きを担当することになった。

当時、岩間と中村は公正証書作成などが原因で仲違いをしていたが、計画のためには中村をフィリピンに誘い出す必要があった。そこでLINEのトークルームを利用するなどして関係を修復させ、中村にフィリピンに行くことを承諾させた。

5月から7月にかけ、岩間・久保田・中村の3人はフィリピンに3度も渡航しているが、殺害計画の実行には至らなかった。

  • 【1度目】5月9日~24日:保険の準備が間に合わず計画は延期
  • 【2度目】6月20日~7月2日:ヒットマンの手配が出来ず殺害を断念
  • 【3度目】7月11日~14日:中村がパスポートを忘れて渡航せず

8月22日、3人は4度目のフィリピン渡航を果たすが、今回は保険の準備もヒットマンの手配も完了していた。8月31日午後7時~午後9時頃、久保田と中村は連れ立ってショッピングモールで食事をした。防犯カメラには、2人の乗った車が午後8時44分にショッピングモールを出る映像が残されている。

中村の遺体を発見

中村達也殺害現場/マニラ連続保険金殺人事件
中村達也殺害現場

その約9時間後となる9月1日午前5時半頃、中村はマニラ南部の住宅街の路上で遺体で発見された。食事のあと、久保田は指定場所まで中村を誘導し、ヒットマンが中村の胸を拳銃で撃ったのだ。発見時、中村は携帯電話や財布など、身元のわかるものは何も身につけておらず、ポケットにあった小銭から日本人であることが判明したのだという。

中村の殺害は成功したものの、岩間と窪田は今回も保険金を得ることができなかった。

2016年5月12日、山梨県警は岩間・菊池・久保田に加え、久保田の妻のスパン・ピンゴル・サリーの4人を、鳥羽さんに対する保険金殺人の容疑で逮捕した。甲府地検は岩間と久保田を2件の殺人罪で、菊池を鳥羽さんに対する殺人罪で、スパン・ピンゴル・サリーを鳥羽さんに対する殺人幇助罪で起訴した。

その後、雇われたヒットマンもフィリピンで逮捕されている。2017年1月13日、現地の警察は2件の殺人事件に関わったとして、フィリピン人のカービー・タンを殺人の疑いで逮捕した。調べに対しカービー・タンは、鳥羽さんの射殺は認めたものの、中村の事件についてはバイクを運転したのみで、現地の日本人の男が射殺した、と供述した。

過去の詐欺事件

2010年10月8日、岩間は知人Aと共謀して、自身が甲府市内で経営する飲食店の壁にレンタカーを故意に衝突させ、事故にみせかけて保険会社から保険金995万円を騙し取った。知人Aはある男に借金があったが、返済できずにいた。男はこの件について岩間に相談したことから、「Aが金を返せないなら、偽装事故を起こして保険金を騙し取ろう」ということになった。

2014年4月23日、岩間・久保田・中村・鳥羽さんの4人は共謀して、知人Bの車と中村の車を故意に衝突させ、偶発的な交通事故と虚偽の申告をして保険金158万円を騙し取った。知人Bは、鳥羽さんが経営する介護施設の経営権買取りに関するトラブルがあった。Bは、岩間と鳥羽さんから「600万円を借り受けた」との念書を作成させられたうえ、Bの母親が会社を設立して介護施設の経営権を買い取ることを約束させられていた。

しかし、その設立費用を用意できずにいたところ、岩間から「自動車の偽装事故を起こし、その保険金を会社設立資金に充てる」ことを持ちかけられ、偽装事故を起こすことを決めた。

主犯・岩間俊彦に死刑

岩間俊彦/マニラ連続保険金殺人事件

岩間俊彦被告の裁判は、甲府地裁で裁判員裁判にて行われた。争点は、”岩間被告が首謀的役割を果たしたか?” であった。検察側は ”LINEのやりとり” や、”岩間のパソコンに残っていたデータ” などを提示して、岩間の犯行を立証しようとしたが、これに対する弁護側は「(証拠のデータは)なりすましで送られた」と反論して無罪を主張していた。

2017年8月25日の判決公判で、甲府地裁は検察側の求刑通り、岩間被告に死刑を言い渡した。裁判長は弁護側の ”LINEのやりとりなどは、なりすまし” とする主張に対し、「不合理で信用できない」とこれを退けた。

控訴審においても、弁護側は「事件は久保田被告が首謀したもの」として、岩間被告の無罪を主張した。しかし2019年12月17日の控訴審判決で、東京高裁は岩間被告側の控訴を棄却した。東京高裁は「首謀者を岩間とする久保田らの証言が具体的で信用できる」と指摘、「岩間被告だけが計画の全貌を把握していた」として一審の死刑判決を追認した。

岩間被告側は上告していたが、2023年6月5日、最高裁がこれを棄却したため死刑が確定した。弁護側は判決に誤りがあるとして訂正を申し立てたが、最高裁は6月22日までに申し立てを退ける決定を出している。

東京拘置所内で病死

岩間は死刑囚として東京拘置所に収容されていたが、2023年8月24日、拘置所内で死亡した。(享年49歳)

岩間死刑囚は、8月24日午後0時半頃、東京拘置所内の居室であおむけに倒れているのが見つかり、医師による救命措置を受けたが、午後3時半頃、死亡が確認された。岩間死刑囚は、以前から糖尿病の治療を受けていて、倒れる前には慢性腎不全とも診断されており、病死とみられる。

久保田正一に無期懲役が確定

久保田正一/マニラ保険金殺人事件

久保田正一被告は、被害者2人に対する殺人罪などに問われ、公判は裁判員裁判にて行われた。甲府地裁は2017年02月14日、求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。

裁判長は判決理由で「計画的な上に巧妙で冷酷。終生の間、罪の償いにあたらせることが相当だ」と指弾。事件における役割について「殺害の実行犯を手配し、被害者(中村)を殺害現場まで連れ出すなど重要な役割を果たした。重要で必要不可欠な存在だった」と指摘した。

そして、「殺人罪の中でも最も重い類型で、有期懲役刑を選択する余地はない」と断じた一方で、「主導的な役割とまでは言えない」とした。また、犯行を自白したことなどから「死刑を選択することには躊躇を覚える」と述べた。

久保田は控訴せず、無期懲役が確定した。

久保田の妻・スパン・ピンゴル・サリー(フィリピン国籍)は、鳥羽さん殺害に対する殺人幇助罪などで、甲府地裁で懲役6年(求刑懲役7年)を言い渡された。彼女は控訴せず刑が確定した。

菊池正幸に懲役15年

菊池正幸/マニラ連続保険金殺人事件

菊池正幸被告は、鳥羽信介さんに対する殺人罪で起訴されていた。弁護側は、自首が成立しているとして寛大な判決を求めていた。菊池の公判は裁判員裁判で行われ、2016年11月14日の判決公判で、甲府地裁は求刑通り懲役15年の判決を言い渡した。

裁判長は判決理由で「共犯者との関係では従属的立場だったが、現地で実行犯を手配して被害者を現場に誘い出すなど、重要で不可欠な役割を果たした」と指摘。「死亡保険金の分け前をもらえるかもしれない、などの動機は利欲的で自己中心的」と述べた。

2017年5月16日、菊池正幸被告の控訴審判決で、東京高裁は懲役15年とした一審判決を支持し、刑を軽くするよう求めていた菊池被告の控訴を棄却した。裁判長は「犯行現場の下見をした上で被害者を連れ出すなど、事件では重要で不可欠な役割を果たした」と指摘した。

もうひとつのマニラ連続保険金殺人事件(1994)

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