
現在、上告中または控訴中の死刑囚をまとめてみました。
上告しているのは岩間俊彦、上村隆、中田充、今井隼人の4人で、控訴中なのは松井広志、岩倉知広、小松博文、野村悟の4人です。
過去の判例からすると、死刑から減刑されることは稀なので、この大半が死刑確定するものと思われます。なお、死刑が確定した死刑囚一覧はコチラ
【控訴中】松井広志:名古屋老夫婦強盗殺人事件

被告人 | 松井広志(当時42歳) *現在は改名して山田広志 |
殺害 | 2人 |
一審 | 無期懲役 |
二審 | 差し戻し |
一審(差し戻し) | 死刑:2023年3月2日 |
2017年、名古屋市南区で80代の老夫婦が、首を刃物で刺されて死亡する事件が発生した。犯人は、現金1200円ほどが入った財布を奪って逃走していたが、事件から3日後、近所に住む松井広志(当時42歳)が警察に自首してきた。
松井は生活保護で入金された約8万円を、その日のうちにパチンコなどでほとんど使い果たしていた。そんな苛立ちをかかえたまま帰宅した松井は、夜8時頃、はす向かいに住む被害者宅に包丁を持って押し入り、そして犯行におよんだ。
2019年、裁判員裁判にて行われた第一審判決で、名古屋地裁は「殺害後に財布を盗むことを思いついたとする被告の供述は否定できない」と、強盗目的を認定せず無期懲役を言い渡した。だが、二審では「原判決には事実誤認がある」として、一審の無期懲役判決を破棄。名古屋地裁に審理を差し戻し、裁判員裁判はやり直しとなった。
そして2023年3月2日。差し戻し審で下された判決は死刑。だが、もしこのまま死刑が確定するようなことがあっても、松井は執行される前に他界する可能性がある。なぜなら、松井は2022年2月にすい臓ガンで余命宣告を受けているからである。医師によると、すい臓ガンは末期のステージ4で、手術や放射線治療はできず、「余命は1年」とのことである。
【上告中】岩間俊彦:マニラ連続保険金殺人事件

被告人 | 岩間俊彦(逮捕時42歳) |
殺害 | 2人 |
一審 | 死刑:2017年8月25日 |
二審 | 死刑:2019年12月17日 |
フィリピン・マニラ市で保険金目的で男性2人を殺害したとされる岩間俊彦(逮捕時42)は、裁判で無罪を主張していたが、一審・二審とも死刑判決となった。
岩間ら犯行グループは、フィリピンで始める事業に誘った男性を2014年10月に現地に渡航させたうえで殺害、翌年には仲間のひとりを同様にフィリピンで殺害した。被害者には1億円の海外旅行保険がかけられていたが、保険金は支払われていない。彼らは実際には手を下さず、現地で雇ったヒットマンに殺害を依頼していた。
共犯の久保田正一は一審判決のあと控訴せず無期懲役が確定、もうひとりの共犯者・菊池正幸も上告せずに懲役15年が確定している。岩間は証拠のLINEのやりとりなどについて、「なりすましで送られてきた」と反論し、首謀者は久保田と主張していたが、公判でこれが認められることはなかった。
現在、岩間は上告中で、最高裁の判断が注目される。
【上告中】上村隆:姫路パチンコ経営者3人殺害事件

被告人 | 上村隆(逮捕時44歳) |
殺害 | 3人 |
一審 | 死刑:2019年3月15日 |
二審 | 死刑:2021年5月19日 |
兵庫県姫路市で、トラブルのあった相手を3人も殺害したこの事件は、主犯と実行犯で判決が分かれるねじれ現象が起こっている。
主犯のパチスロ店経営・陳春根は、金銭トラブルなどから広告会社社長と暴力団幹部をそれぞれ監禁の末に殺害。その後、父親を殺した報復として暴力団員も殺害した。しかし実際に手を下した実行犯は部下の上村隆で、この2人を含む複数人が逮捕された。
陳春根と上村隆の裁判は別々に行われた。
- 2018年11月8日:陳春根の一審判決は無期懲役
- 2019年3月15日:上村隆の一審判決は死刑
- 2021年1月28日:陳春根の二審判決は無期懲役
- 2021年5月19日:上村隆の二審判決は死刑
- 2022年10月12日:最高裁で陳春根の無期懲役が確定
本来なら、殺害を指示した側も実行役も罪の重さは変わらない。だが、本事件では指示した陳春根に無期懲役が確定、上村の二審判決は死刑となっている。
陳春根は起訴内容すべてを否認し、無罪主張していた。このうち、会社社長殺害については「遺体が見つからず死因も不明で、犯罪の証明がない」として無罪を認定された。しかし、上村は「3人の殺害すべてに関与した」とされている。これが ”主犯と実行犯で判決が異なる” 理由である。
現在、上村は上告中だが、”ねじれた判決のまま死刑確定してしまうのか?” が注目されている。
【上告中】中田充:福岡母子殺害事件

被告人 | 中田充(当時38歳) |
殺害 | 家族3人 |
一審 | 死刑:2019年12月13日 |
二審 | 死刑:2021年9月15日 |
2017年6月6日、福岡県小郡市で、現職警察官の中田充巡査部長(当時38歳)が妻と小学生の子供2人を殺害する事件が起きた。
当初、警察は「育児に悩んでいた妻による無理心中の可能性が強い」と見て捜査を開始した。母子3人の死因はいずれも窒息死で、1階台所には燃えかけの練炭があった。
しかし司法解剖の結果、3人の死因は「首を絞められたことによる窒息死」と判明。妻の首の骨には強く圧迫された跡があり、子供2人はトレーニング用のゴムチューブで首を絞められたことがわかった。また、妻の爪から夫の中田のDNAがみつかったことから、中田は母子殺害容疑で逮捕された。
中田は、取り調べ段階から一貫して犯行を否認した。爪の皮膚片も、前夜ケンカした時に搔きむしられたものと主張したが、中田の疑惑は物的証拠だけではなかった。死亡推定時刻には、スマホの位置情報から中田が家に居たことが判明。さらに周辺の防犯カメラから、その時間帯に第三者が家に侵入した形跡もなかった。
2019年12月13日、福岡地裁は中田に死刑を言い渡した。中田側は控訴したが、2021年9月15日に棄却となり、やはり死刑の判決。
中田が犯行を否認しているため、動機ははっきりしないが、夫婦は不仲だったという。不仲の原因は、中田のパチスロ狂いとみられている。普段からケンカが絶えず、中田は同僚に「妻に死んでほしい」などと打ち明けていたこともわかっている。現在、中田は上告中である。
【上告中】今井隼人:川崎老人ホーム連続転落死事件

被告人 | 今井隼人(当時23歳) |
殺害 | 3人 |
一審 | 死刑:2018年3月22日 |
二審 | 死刑:2022年3月9日 |
2014年11月~12月にかけ、自身が勤める川崎市幸区の有料老人ホームで入所者の男女3人を相次いでベランダから転落死させた今井隼人(当時23歳)。逮捕後は「手のかかる3人が煩わしかった」と犯行を認めていたが、その後、黙秘するようになり、裁判では否認に転じた。
当初、神奈川県警は事故死として処理し、司法解剖も行われなかった。そのため、決定的な物的証拠もなかったが、検察側は「3件の転落があったすべての日に夜勤していたのは今井被告のみ」「逮捕後の自白について、警察の圧力や誘導は無かった」と主張。注目された一審判決は死刑だった。
今井は精神鑑定で「自閉症スペクトラム障害」と診断され、弁護側は「犯人だったとしても心神喪失か心神耗弱」と主張したが、事件当時は正常な心理状態で責任能力ありと判断された。
被告側は控訴したが、東京高裁は「一審の評価は相当。死刑が重過ぎて不当とは言えない」と、これを棄却。二審でも今井には死刑が下された。今井被告側は、無罪を主張して上告中である。
【控訴中】岩倉知広:鹿児島県日置市5人殺害事件

被告人 | 岩倉知広(当時38歳) |
殺害 | 親族5人 |
一審 | 死刑:2020年12月11日 |
父親を含む親族5人を殺害した岩倉知広(当時38歳)に、鹿児島地裁は求刑通り死刑を言い渡した。
岩倉は1年間在籍した自衛隊を辞めたあと、幻聴が聞こえるようになった。母親に「俺の悪口を言っているだろう」と言って暴力をふるったり、「誰かに監視されている」と打ち明けていた。
精神鑑定でも「妄想性障害」と診断されている。
やがて岩倉は、その幻聴を叔父ら親族の声と思い込むようになる。叔父らは ”自分を迫害する一派” で、嫌がらせを受けていると考えていた。嫌がらせの内容は「水道水に毒を盛られて、歯がボロボロになった」「住んでいた街を乗っ取られた」などという荒唐無稽なもの。犯行動機については「嫌がらせを繰り返し受けた復讐」と話している。
公判中も岩倉の異常性が確認されている。判決で死刑が言い渡された時、岩倉は検察官や遺族に向かって飛びかかろうとしたのだ。そして親族に対して「お前のしてることは許されんぞ!」と叫んだという。法廷は騒然となったが、刑務官がすぐに取り押さえ、大事には至らなかった。
【控訴中】小松博文:日立妻子6人殺害事件

被告人 | 小松博文(当時32歳) |
殺害 | 家族6人 |
一審 | 死刑:2021年6月30日 |
どんな仕事も長続きせず、パチンコばかりしていた小松博文(当時32歳)は、ついに妻に愛想をつかされ、離婚をつきつけられた。妻は生活のためスナックでアルバイトをしていたが、そこで客の男性と懇意になったことも原因のひとつだった。
夫婦には3歳から11歳の子供が5人もいて、最近ではめずらしい7人家族。家族はもともと妻が借りていた県営団地に住んでいたため、離婚後は小松が家を出ていかざるをえなかった。そして、そのあとには妻の新しい ”相手” が一緒に住むことになっていた。
小松が家を出て行く予定の2017年10月6日早朝、小松はある決心をする。それは「家族を殺して自分も死ぬ」という恐ろしいものだった。小松は就寝中の家族全員を包丁で刺して家に火をつけたが、自分は死にきれず警察に出頭。翌日、家族全員死亡したことを知る。
起訴後、持病で倒れて記憶の一部を失った小松だったが、裁判は可能と判断された。そして2021年6月30日の第一審判決で、死刑が言い渡された。
【控訴中】野村悟:北九州元漁協組合長射殺等事件

被告人 | 野村悟(当時歳) |
殺害 | 2人 |
一審 | 死刑:2021年8月24日 |
一般市民を襲撃した4つの事件で殺人などの罪に問われた暴力団「工藤会」の総裁・野村悟が、死刑判決を言い渡された。暴力団トップへの死刑判決は初のことだった。(工藤会ナンバー2の会長・田上不美夫は無期懲役)
福岡地裁は「裁判員が工藤会による危害を受ける恐れがある」との判断から、公判を裁判員裁判の対象から除外し、職業裁判官のみで審理した。
- 元漁協組合長射殺事件(北九州市):1998年2月
- 元福岡県警警部銃撃事件(北九州市):2012年4月
- 看護師女性刺傷事件(福岡市):2013年1月
- 歯科医師刺傷事件(北九州市):2014年5月
対象となった上記4つの事件については、実行犯の工藤会系組員らに有罪判決が確定していたが、野村らトップについては不問に付されていた。野村らは、直接手を下していなかったが、判決は元漁協組合長射殺事件などで「実行犯との共謀が ”推認” される」との判断だった。
判決で死刑が言い渡された時、野村は裁判長に向かって、「あんた生涯、このこと後悔するよ」と威嚇のような発言をしたことも話題となった。