「新潟小2女児殺害事件」の概要
2018年5月7日夜、小学2年生の女児が電車に轢かれる事故が発生した。しかし司法解剖の結果、女児は事故の前に絞殺されていたことが判明する。捜査で浮上したのは、女児の家の近所に住む小林遼(当時23歳)で、彼は前月にもわいせつ行為で書類送検されていた。
小林は、女児に故意に車を衝突させて誘拐。その後、泣き叫ぶ女児を気絶させようと首を絞めたところ、女児は死亡してしまった。裁判では死刑の求刑に対し、一審・二審判決は無期懲役。検察側が上告を断念したため、小林が死刑になる可能性はなくなった。(弁護側のみ上告中)
事件データ
犯人 | 小林遼(当時23歳) |
犯行種別 | 誘拐殺人事件 |
犯行日 | 2018年5月7日 |
場所 | 新潟県新潟市西区 |
被害者数 | 1人死亡 |
判決 | 二審・無期懲役(弁護側上告) |
動機 | わいせつ目的 |
キーワード | 小児性愛者(ペドフィリア) |
事件の経緯
2018年5月7日、電気工事士の小林遼(当時23)は、これまで連絡なしで休むようなことはなかったが、この日は起きてすぐに無断欠勤を決めた。
小林は小児性愛者で、4月には女子中学生を連れまわしたことで書類送検されていた。それに懲りず、小林は両親と同居の自宅を出発し、女児を物色しながら軽自動車を走らせた。この時、位置情報記録を防ぐため、スマホのGoogleアカウントからログアウトするなどしていた。
小林の勤める会社では、7日の朝、本人が出勤してこなかったので、総務部から母親に電話を入れたが、母親は欠勤していることを知らなかった。翌日、会社に警察から『小林君はおたくの社員ですか? 出社していますか?』と連絡があり、それ以降も警察から何度も電話があったという。
小林が目を付けたのは、新潟市立小針小学校2年生の女児・大桃珠生さん(当時7)だった。珠生さんは午後3時頃に友だちと学校を下校し、自宅から約300mの踏切付近で友人と別れた。そのあと自宅に向かう生活道路をひとりで歩いているところを、小林がみつけたのだ。
午後3時20分頃、小林は珠生さんに軽自動車を意図的に衝突させた。そして、転倒した珠生さんを抱きかかえて後部座席に乗せると、「頭が痛い、お母さんに連絡したい」と泣いている珠生さんの首を絞めて気絶させた。
珠生さんの首を絞めて殺害
その後、車で約2km走行し、海沿いにある『なぎさのふれあい広場』の駐車場に車を停めた。それから珠生さんの下半身に触れるなどわいせつ行為におよんでいると、珠生さんが意識を取り戻したため、小林は再び珠生さんの首を絞めつけた。
この時、小林は5分以上も首を絞めたために、珠生さんは死亡してしまう。午後6時30分頃、小林は遺体を一旦自宅に持ち帰るのだが、性欲がおさまらずアダルトショップでローションを購入。「死後硬直していてもお湯で温めれば何とかなるのではないか」と考え、水筒にお湯を詰め、再び車で通称『たこ公園』に向かった。午後7時頃、車内で遺体に対して性的暴行を行い、ひとしきり欲望を満足させると、小林はインターネットで遺体処理に関する情報を調べた。
小林はインターネットで「死体処理」「死体博物館」「女体博物館」などのワードで検索。午後8時頃には「女体 死体 恋愛 ネクロフィリア」、午後9時~午後10時にかけて「セックス 年齢」「セックス 可能 年齢」「死体 線路 飛び込み」「線路 監視カメラ」など、さまざまなワードで検索をかけていた。
午後10時25分頃、自宅そばのJR東日本越後線「小針~青山駅間」の線路内に、珠生さんの遺体を遺棄。5分後(午後10時30分頃)に走行した普通電車にその遺体を轢過させ、頸部を切断させた。電車の乗客約170人に怪我はなかったが、この事故で上下線計7本が運休・遅延し、約1400人に影響が出た。現場は単線で、約10分前に下り列車が通った際は、異変はなかったという。
犯行翌日、小林は事件の痕跡を消すため、軽自動車を掃除したうえ、フロアマットを洗浄。はいていたズボンを洗濯し、スマホの使用履歴も消去した。
小林は当初から監視対象
電車事故により発見された珠生さんの遺体だが、司法解剖の結果、死因は窒息と判明する。県警は、「轢かれる前に絞殺されていた疑いがある」とみて殺人・死体遺棄事件として新潟西署に捜査本部を設置した。
捜査を開始した当初から、小林は捜査線上に浮上していた。小林は前月にも車で女子中学生に対するわいせつ行為で書類送検されていたのだ。警察は現場の線路周辺を捜査する中で、柵などから小林の指紋を採取していた。しかし、小林の自宅は事故現場から70mほどで、偶然付着した可能性もあることから小林の動きを追っていた。
小林の自宅と珠生さんの家は約100mしか離れておらず、遺体が置かれた線路も誘拐した場所も小林宅のすぐ近所である。しかも、小林は事件当日は無断欠勤していて、事件後も会社に行く様子がないなど不審な点がみられた。
事件から7日後(5月14日)の午前7時30分頃、県警は道の駅「新潟ふるさと村」(小林宅から約4km)の駐車場で、小林の軽自動車を取り囲んで任意同行を求めた。そして事情聴取を行うとともに、小林の軽自動車を調べていたが、午後になって事件への関与を認める供述を始めたため、午後10時頃に殺害容疑で逮捕した。
その後、珠生さんへのわいせつ略取・強制わいせつ致死・死体損壊・死体遺棄・電汽車往来危険の罪でも再逮捕となった。また、別の女児のポルノ画像を所有していた児童ポルノ禁止法違反で起訴された。
逮捕2日前の5月12日、出会い系サイトで知り合った女子児童に対して「金を払うからセックスしよう」と持ちかけていたという。
小林遼の生い立ち
小林遼は、両親と姉・弟の5人家族で、仲のいい一家との評判だった。近所の人によると、小林の父親はいい人で、いつもチワワ2匹を家の前で散歩させていたという。小林は地元の小学校・中学校を卒業し、県立新潟工業の電気科に進学した。(小学校は被害者と同じ小針小学校)
小・中学校時代に仲の良かった同級生は、小林について「おとなしいタイプで、誰かに怒ったりとか、殴ったりしたところも見たことがない」と話す。小林の家には『Wii』『プレイステーション3』といった人気のゲーム機が揃っていて、ソフトもたくさん持っていた。また、小林はアニメも好きで、よくガンダムの話をしたという。
中学では科学技術部という部活に所属していた。同級生だった女性は「小林君とは気軽に話していました。別におかしいところはなかった。どちらかといえばいじられキャラだったかな」と振り返る。だが事件発生直後、まだ容疑者不明の時期に「あれは小林がやったんだろ。あいつは中学のころから普通じゃなかった。根が暗くて超やばかったからね」と疑う別の同級生もいたという。
ある同級生は、小林について「中学のころから変わった」と証言する。このころから同級生たちと遊ばなくなり、近所の小さい子たちと遊ぶことが多くなったというのだ。次第に付き合いはなくなり、「あいつ、ロリコンでやべえ」といった声もあったという。
小林は、中学の卒業アルバムに ”10年後の自分” というタイトルで「平和な暮らしを楽しんでいる」と書いていた。
会社では普通の社員だった
高校を卒業すると、小林は新潟市内でも大手の電気工事会社に就職し、電気の配線や照明器具の設置などを担当していた。経営者によると、「入社6年目の中堅社員として信頼しており、無断欠勤や職場内でのトラブルもなかった」という。
また、会社の代表取締役は「働きぶりは至って真面目で、おとなしい。会社の飲み会には必ず出席して、他の社員や経営陣とも普通に話したり冗談も言う。コミュニケーションがちゃんと取れていて、変な子ではなかった」と評する。
小林は、一見するとごく普通の青年だが、実は周りの知らない裏の顔を持っていた。小林は2018年1月には児童ポルノで、4月には車で女子中学生を連れまわして猥褻行為をしたとして青少年健全育成条例違反で書類送検されているのだ。(新潟だけでなく、山形でも検挙された過去があるという)
本事件の逮捕後の態度をテレビで見た同僚の男性(23)は、「彼らしい余裕の態度だな」と感じたそうである。「(小林は)仕事でミスをして怒られると、すごくあたふたしていたが、その後はひょうひょうとしていて反省の色がなかった。何を考えているかわからないところがあった」と振り返った。
精神科医・片田珠美氏の見解
「遺体を線路に置いて自殺に見せかけようとしたのでしょうが、結果的に隠せなかったことなど、彼の行動はどれもお粗末で短絡的。現実検討能力が低く、おそらく知能指数も低い。社会人6年目にしては顔つきも幼すぎで、精神年齢の低さが感じられます。これまで我慢して、隠して抑圧していた欲望が、なにかのきっかけで止められなくなり、衝動的に犯行に及んだのではないでしょうか」
精神科医・和田秀樹氏の見解
「小児性愛者にも好みがあり、以前から珠生ちゃんに目をつけ、いたずらすることを妄想していた、という可能性も拭えません。小児性愛は病気で、型の違いや個人差はありますが、最低でも半年間通院すれば、回復の兆しは見えてきます。アメリカでは性犯罪の前科者は監視され、警察の指導も受けますが、日本では人権を理由にほとんど行われません。しかし、小児性愛者による犯行は衝動的なものが多いので、一度でも事件を起こしていたら、危ないと考えるべきです」
裁判
2019年11月8日、新潟地方裁判所にて裁判員裁判による初公判が行われた。
小林遼被告は、珠生さんにわいせつ行為をしようとしたことは認めたものの、犯行の計画性を否認。弁護側は冒頭陳述において、過去にネットで知り合った未成年との性行為で、「求められて首を絞め、気絶させたことがある」として、珠生さんに対する首絞め行為も「黙らせるため気絶させようとしただけ」であると主張した。
証人として珠生さんの遺族が出廷し、小林被告からの謝罪がこれまで一切なかったことが明らかにされた。
11月22日、検察側は「自分の性的欲望を優先し、被害者を物としてしか見ていない」「まれにみる悪逆非道な犯行で、生命軽視の度合いは甚だしく大きい」として死刑を求刑。一方、弁護側は殺意とわいせつ行為を否定し、傷害致死罪を主張して結審した。
12月4日の判決公判にて、小林被告に無期懲役の判決が言い渡された。裁判長は、小林の犯行が極めて悪質であることを認めながら、遺体を線路に遺棄した行為が殺害行為にはあたらないなど、死刑には慎重さと公平性が重視されると説明した。
判決後、裁判長は小林被告に「被害者には一日に何度でも謝罪し、土下座してほしい」と発言するなど感情を露わにした。また、裁判員らも「個人的には遺族と同じ気持ち」「基準を見直していかなければならないのでは」と、”無期懲役判決の妥当性” には異論があるとの発言もあった。
その後、検察側・弁護側の双方が、判決を不服として東京高等裁判所に控訴した。
二審も無期懲役
2020年9月24日、東京高裁で控訴審の初公判が開かれた。検察側は無期懲役とした一審判決は著しく不当と主張して改めて死刑を求、弁護側は有期懲役が妥当とした。
検察側は、小林被告は女児を連れ去ったことの発覚を防ぐため、少なくとも5分以上、首を絞め続けたとし、強固な殺意が明確に認められると主張。一方、弁護側は「首を絞めたのは気絶させて静かにさせるためで殺意はなかった」と反論し、無期懲役は重すぎると訴えた。
2021年3月1日の公判では、司法解剖を行なった医師が検察側証人として出廷した。一審では ”首を絞めた時間” について認定しなかった事に対して、医師は「一審判決には法医学的に誤りがある」と述べた。医師は、「少なくとも3分以上、あるいは4分以上首を絞めた」と強調した。
2021年9月30日には被告人質問が行われた。小林被告は、警察・検察の取り調べの時点ではわいせつ行為を認めていたが、公判で否認に転じた理由について、「警察官から『動かない証拠がある』と言われ続け、行為があったと信じ込んでしまった」と説明。「起訴後に弁護人から指摘され、やはり私の記憶とは異なると思った」と述べた。
小林被告はこの日、被害者参加制度を利用して出廷した珠生さんの父親に、「一生かけて謝罪し、償い続けます」と土下座した。
2021年12月16日の弁論で検察側は、「小林被告には犯行時、強固な殺意があった」と主張し、一審同様に死刑を求刑した。これに対し、弁護側は、有期刑が相当と主張した。
2022年3月17日の控訴審判決公判で、東京高裁は一審の無期懲役の判決を支持して検察側・弁護側双方の控訴を棄却した。
弁護側は有期刑が相当として、2022年3月22日に上告。一方、検察側は2022年3月31日、「判決内容を十分に検討したが、適法な上告理由が見いだせなかった」として上告を断念した。これにより、小林被告に死刑が言い渡される可能性はなくなった。