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大阪個室ビデオ店放火事件|中途半端な自殺願望で16人が犠牲に

小川和弘 日本の凶悪事件

大阪個室ビデオ店放火事件

2008年10月1日、大阪市浪速区の個室ビデオ店で、客の放火による火災が発生した。
犯人の小川和弘はこの日、客として来店。しかし滞在中、人生に失望していた小川は自殺するつもりで火をつけるも煙に耐えられず自身は逃走。その結果、店の客16人が巻き添えになって死亡するという、最悪の放火殺人事件となった。
裁判で小川は死刑となったが、火元は別と主張して再審請求をくり返している。

事件データ

犯人小川和弘(当時46歳)
事件種別 放火殺人事件
発生日 2008年10月1日
場所大阪府大阪市浪速区難波中3丁目3-23 
個室ビデオ「キャッツなんば店」
被害者数死亡16人、負傷者4人
判決死刑(収監中)
動機 人生に悲観して自殺を試みた
キーワード 自殺未遂

事件の経緯

2008年10月1日午前1時15分頃、小川和弘(当時46歳)は知人と個室ビデオ店「キャッツなんば店」に来た。知人というのは、2日前に心斎橋で知り合った占い師で、この占い師には、離婚や自殺未遂等の話を打ち明けていた。そして指輪や数珠・時計をもらうなどして親しくなり、小川は彼と行動を共にしていたのだ。

小川は占い師を「先生」と呼び、自ら彼のキャリーバッグを引いて歩いていた。前日9月30日の日中は、占い師の知人の宗教施設についていき、深夜になって大阪市内に戻ってきた。ラーメン店で食事をしたあと、占い師から「AV見れるとこに行こうか」と誘われ、宿泊も兼ねてふたりで「キャッツなんば店」に来たのだった。

そして10月1日午前1時15分頃、ふたりは店内に入った。

小川はDVD貸出コーナーからアダルトDVDを1本を選び、入店手続きをした。そして個室エリアに入るドアを通り、店員から指定された18号室に入った。占い師のキャリーバッグは持ったままだった。

18号室は幅約125cm、奥行き218cm、天井までの高さは230cmの狭い空間だった。リクライニングソファーがあり、奥の木製の棚にはテレビ・DVDデッキ・箱入りティッシュが置かれていた。
部屋に入った小川は上下とも下着姿になり、借りたDVDを見ながら自慰行為をした。

人生に悲観して・・・

その後、彼はトイレに行ったり、どんな部屋があるか見回ったり、占い師の17号室を訪れたりしている。その際、他の客のトイレの音やDVDを見ながらの淫靡な声が聞こえてきた。また、部屋の狭さなども相まって、だんだんとこの店に居ることが嫌になった。
そして、「自分はこんな場所にいるヤツらと同じレベルなのか」と思うと、だんだん自分が惨めになってきた

部屋に戻った小川は、眠ろうにも眠れず、イライラと惨めさで人生を悲観する気持ちが高まっていった。そのうち頭の中は「何もかも嫌になった、ここで死のう」という考えに支配されていく。彼は、ティッシュペーパー4~5枚を丸めてキャリーバッグに入れ、それにライターで火を点けた

キャリーバッグには占い師の商売道具のほか、衣類や新聞紙が入っていて火はそれらに燃え移った。店内にいる人たちが巻き添えになることには申し訳ないと思ったが、同時に自分が死ぬためだから仕方ないとも考えていた。

やがて個室は煙が充満し、小川は息苦しさに耐えられなくなる。思わず彼は自殺の決意も忘れ、部屋を飛び出してしまった。その時、通路にいた客が小川とすれ違ったが、焦げ臭く感じたので不審に思った。その客が小川の部屋をのぞいてみたところ、なんとキャリーバッグが燃えているのを発見。彼は「水をかければ消せそうだ」と思い、店員に伝えに行った。

その報告を受けて店員が消火に動き出したその時、爆発音が響いた。それと同時に店内は停電して真っ暗になる。そして小さな火に思えた炎は、可燃物が多かったこともあり、またたく間にまわりに広がった。

店員は大声で避難を呼びかけたが、寝ている人やヘッドホンをしている人が多く、また気付いたとしても、火と煙で逃げるのは困難だった。

逮捕

 

大阪ビデオ店放火殺人・出火直後の現場
出火直後の現場
大阪ビデオ店放火殺人・消火作業後の現場
消火作業後の現場

午前2時57分頃、店員が119番通報をし、消防車・救急車合わせて40台、127名が到着した。
火災発生直前に挙動の怪しかった小川を店員が問い詰めると「すみません。補償もします。弁護士もつけます」と言ったという。

このことを聞いた警察が、小川と話したところ「死にたかった。前にも自殺未遂を図ったことがある」と答えたため、午前4時頃、小川は連行されることになった。

Bitly

午前5時頃、取り調べが開始された。
小川はティッシュを丸めてキャリーバッグに入れ、ライターで火を付けたことを認めた。そして「死にたかったんです」と供述した。そのため警察は同日午後2時34分、小川を殺人・殺人未遂・放火の疑いで逮捕した。

 

取り調べ

10月16日までの供述では、小川は

  • 18号室にキャリーバッグを持ち込んだこと
  • 自分がそのキャリーバッグに放火したこと

について一貫して認めていた。しかし、その後は供述が変わっていく。

  • 10月17日6時頃、小川は弁護人に「本当はティッシュを丸めて火を付けた覚えはない」と話した。
  • 10月18日の取調べでは、放火を認める供述をした。
  • 10月19日の取調べでも、初めは犯行を否認したが、結局、放火を認める供述をした。
  • 10月20日の取調べにおいて、それまでの供述を変更し犯行を否認した。
  • 10月21日の取調べにおいても、放火した事実を否認した。

その後は公判においても一貫して否認に転じている。

10月22日、大阪地方検察庁は小川を殺人殺人未遂現住建造物等放火の罪で起訴した。

犯人・小川和弘について

小川和弘
大阪ビデオ店放火殺人・小川和弘

小川和弘は、大阪府内の高校を卒業した後、トラック配達助手として就職した。ほどなくして転職し、パナソニックでライン工として働いた。
25歳の時、社内で知り合った女性と結婚、長男と長女をもうけた。しかし31~32歳頃に離婚、小川は長男の親権者となり、母親と3人で生活し始めた。

家族がバラバラになり人生を悲観した小川は、自宅の風呂場で手首を切り、腹を刺して自殺を図ったことがあった。しかし、このときは自分で119番通報をし、病院に搬送された 。

その後、職場に復帰したものの、早期退職者の募集に応じ、40歳の時に22年間勤務した会社を退職した。それからは失業保険給付を受けたり、たこ焼き屋でアルバイトをしたりしている。

42歳の時に母親が死亡、遺産相続や退職金等合わせて約5000万円を手にした。しかし競馬・パチンコ等のギャンブルやキャバクラ通いで、2年ほどでほとんど使い果たしてしまう。

そこで門真市の自宅を売り払い、東大阪市にマンションを購入して差額を得たが、やはりギャンブル等で使ってしまった。しまいにはそのマンションも売り払い、賃貸住宅に住むことになった。そのころ長男が家を出ていき、ひとりで暮らすようになった。 

2006年11月頃からタクシーや運転代行業者の運転手として働いたが、2007年11月頃からは仕事をしていない。2007年2月には、心臓の病気で1か月ほど入院。このころ 「他人の養子になったら10万円やる」という話に乗って、養子縁組をしている。

こういった戸籍売買は、多重債務者に対し借金返済の一環として行われることがあり、犯罪グループに悪用されることが多い。この件では戸籍を元に戻そうとしたところ、逆に金を請求され、弁護士に相談したということもあった

2008年5月頃、東大阪市の共同住宅に引っ越す。このころ知人の勧めで生活保護(月12万円)を受けるようになったが、パチンコなどにも行けずストレスがたまっていた。支援センターで仕事を探したこともあるが、結局仕事には就いていない。

そして同年10月1日、本事件を起こした。小川には過去の前科・前歴はなく、特に犯罪傾向はないとされているが、裁判では死刑が確定した。

知人によると、小川は「自分の女に店をさせている」と吹聴したり、ブランド品を身につけるなど、見栄を張る傾向があったそうだ。それゆえ、自分の理想と真逆の個室ビデオに自尊心が傷付き、それが犯行の後押しをしてしまったのかもしれない。

現在は大阪拘置所に収監中である。 

裁判:最高裁で死刑確定

2009年9月14日に大阪地裁で第一審初公判が行われた。

小川は犯行を否認し、「自分のタバコによる失火だと思い、認めてしまった」と無罪を主張した。しかし警察による実験では、タバコの火でキャリーバッグを燃やすことはできなかった

2009年12月2日、大阪地裁は、求刑通り死刑判決を言い渡した。弁護側はこれを不服として、即日控訴した。

控訴審の初公判は2010年11月30日、大阪高裁で開かれた。弁護側は、逮捕当初の自白について、「警察官が怖くて自白したもので、信用性はない」と主張、火元についても別の部屋だとして、無罪を主張した。

2011年7月26日、大阪高裁は控訴を棄却、第一審の死刑判決を支持した。弁護側はこれを不服として最高裁判所に上告。だが2014年3月6日、最高裁判所は上告を棄却し、小川の死刑が確定した。

再審請求:火元は別の部屋と主張

大阪ビデオ店放火殺人・店内見取り図


2014年5月 弁護団は大阪地裁へ再審請求を行った。新証拠として、個室ビデオ店の模型(1/20スケール)を用いた燃焼実験の鑑定結果などを提出し、以下のように主張した。

  • 火元は18号室ではなく、最も焼損の激しい9号室だと推定される
  • 18号室の出火はテレビなどの発熱による発火が原因である可能性がある

これに対し、大阪地裁は2016年3月に

  • 2ヶ所から出火したとの主張は、経験則上も大きな疑問を抱かざるを得ない
  • 提出された鑑定書は、大阪府警の分析を覆す根拠とならない

として再審請求を棄却した。最も焼損が激しいのは9号室だが、それは燃え広がり方の問題であって、あくまで火元は18号室という見方に変わりはなかった。

この決定を不服として、即時抗告するも2018年10月に棄却、そして最高裁へ特別抗告。
「冤罪の可能性が高い」と判断した日弁連が、再審請求の支援を発表するも、2019年7月17日付で再審請求は棄却された。

同年11月、第2次再審請求が行われ「火元が異なる可能性を示す燃焼実験の結果」を、大阪地裁に提出した。

小川和弘は、現在大阪拘置所に収監されている。

火災対策に問題あり

 

大阪ビデオ店放火殺人・店内見取り図

本事件では、店舗の消防設備に問題があったことが指摘されている。
細長い個室エリアの非常口は1か所のみで、奥のほうは窓や非常口・排煙設備はなく、建築基準法に抵触する恐れもある。

火災警報器は鳴ったものの、管理者がオフにしていたなどの管理体制の不手際も判明している。「普段から誤作動が多かったからオフにした」とのことで、設備自体に不具合が生じている可能性もある。

雑居ビルの9割に消防法令違反

 

大阪ビデオ店放火殺人・跡地
現在の火災現場跡

2001年の新宿区歌舞伎町ビル火災では、小規模なビルであるにもかかわらず44名もの尊い命が奪われた。ここまでの大惨事となった要因として、数々の消防法令違反があったことがあげられる。
それはこのビルに限ったことではなく、小規模雑居ビルの9割に何らかの消防法令違反があったことが当時の一斉立入検査で判明している。

消防法は、大火災が発生するたびに改正されている。しかしすでに建っているビルに、新しい法令をあてはめることは正直簡単ではない。すなわち古い建物は、その時代には適法であっても、今の常識では危険な場合が多いのだ。

 

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