「三重連続射殺事件」の概要
1994年7月19日、浜川邦彦(当時34歳)と共犯の男は、暴力団員から預かっていた拳銃で2人の男性を銃殺、多額の金を奪った。しかし逮捕後、凶器の拳銃はみつからず、浜川は完全黙秘のうえ無罪を主張した。
だが、公判では周りの証言から「浜川が38口径の拳銃で2人を射殺した」と認定され、死刑が確定。弁護団は2度の再審棄却を経て、2022年11月に「証拠の弾丸は35口径だった」として、さらなる再審請求をしている。
事件データ
主犯 | 浜川邦彦(当時34歳) 死刑:名古屋拘置所 |
共犯 | 金東錫(当時34歳) 無期懲役 |
事件種別 | 強盗殺人事件 |
発生日 | 1994年7月19日、11月20日 |
場所 | 三重県鈴鹿市、三重県伊勢市 |
被害者数 | 2人死亡 |
動機 | 金銭目的 |
キーワード | 拳銃 |
事件の経緯
会社役員の浜川邦彦(当時34)は、大阪市浪速区の無職・金東錫(はるせき)(当時34)と共謀して三重県鈴鹿市の保険代理店を営む平松洋一さん(当時36)から金品を奪う計画を立てた。
1993年6月頃、金東錫は平松さんから融資を依頼された際、自ら金を貸すのではなく、知人に500万円の貸し付けをさせて自分はその保証人となった。また1994年初めには、平松さんに「小切手4通」を担保として600万円を貸し付けた。(600万円は金東錫が金融業者から借りたもの)
だが1994年6月以降、平松さんは借金の利息を払わなくなり、金東錫はその肩代わりをせざるを得なくなった。さらに、金東錫には野球賭博での負け分が3千万円ほどあり、それらの返済に窮することになった。
にもかかわらず平松さんは悪びれる様子もなく、新車のBMWを乗り回したり、金東錫に軽口をたたいたりしたことから、金東錫は平松さんに殺意を抱き、浜川に相談していた。
1994年7月19日午後1時頃、浜川らは三重県鈴鹿市の産業廃棄物 最終処分場に平松さんを呼び出した。平松さんがBMWに乗って現場に到着すると、金東錫は平松さんをクラウンの後部座席に招き入れて雑談を始めた。すると浜川がクラウンに近付き、窓から右腕を差し入れ拳銃を発砲。弾丸は頭部に3発命中して、平松さんは死亡した。
その後、金東錫が平松さんの遺体をクラウンに乗せ、三重県津市内の立体駐車場に移動。一方、浜川は平松さんのBMWで三重県津市の銀行に向かった。BMWには平松さんのアタッシュケースがあり、中には預金通帳・印鑑・クレジットカード・小切手などが入っていた。午後2時55分頃、浜川は平松さんを装い、小切手に金額を書き入れて銀行から1000万円を騙し取った。
7月21日午前6時20分頃、浜川と金東錫は、平松さんの遺体が乗せられているクラウンで三重県久居市の造成地まで移動。あらかじめ掘削機で掘られたた穴に、平松さんの遺体を遺棄したのち、その穴を埋めた。
第2の強盗殺人
浜川は金東錫ら2人と共謀して、第2の強盗殺人を企てた。今回のターゲットは高木功さん(当時63)で、三重県小俣町の真珠の輸入販売業をしている男性だった。金東錫は以前、高木さんと象牙の取引をして損をしたことがあったことから恨みを持っていた。
11月20日午後8時頃、高木さんを三重県伊勢市の倉庫敷地におびき出すと、浜川と金東錫が高木さんに暴行のうえガムテープで両手を後ろ手に縛った。さらに顔面にもガムテープを巻き付け、停めてあった車(トヨタ・カリブ)の後部座席に押し込み、浜川が拳銃で頭を撃って殺害。高木さんの預金通帳や印鑑が入った手提げ鞄を奪った。
その後、浜川は三重県小俣町の高木さん宅に行き、真珠などを強取した。21日午前3時頃、浜川ら3人は、高木さんの車(BMW)を盗み、午後8時頃、事情を知らない知人男性に、高木功さんのクラウンを譲り渡した。それから午後2時5分頃、浜川は銀行に赴き、高木さんを装って預金口座から227万円を騙し取った。
高木さんの遺体は22日午前9時30分頃、金東錫ともうひとりの共犯が久居造成地に運び、平松さんの時と同様に埋めて遺棄した。浜川は23日までに高木さんのクレジットカードを使い、高級腕時計や電気機器などを購入したり、キャッシングなどで約100万円を騙し取っている。
平松さん(最初の被害者)が殺害されたあと、平松さんの家族は警察に行方不明の届出をしていた。警察が捜査を開始したところ、平松さんの預金を引き出した際の防犯カメラ映像から浜川らが浮上。警察は浜川らを容疑者と断定し、逮捕となった。
逮捕後、浜川は取り調べで完全黙秘した。
拳銃の謎
犯行に使われた拳銃は、浜川が知人の暴力団員から預かったものだとされている。この暴力団員は恐喝事件を起こして出頭する際、自宅にあった拳銃を警察から隠す目的で組本部長に預けようとした。
しかし警察の目もあり、自分で動くことを避けて1993年10月6日頃、組本部長に渡してもらうよう浜川に預けた。浜川はこれを自分の元で保管したいと考え、組本部長にその旨を伝えて了承を得た。
浜川と暴力団員は1992年3月頃にスナックで知り合い、同じ草野球チームに所属したことから親しくなった。
浜川はさらに別の人物に預けたが、さまざまな事情から1994年3月8日、拳銃は浜川のもとに戻ってきた。最初の事件を起こしたのは、その約4カ月後。2つの殺人に使われたこの拳銃は、事件後は行方がわからない状態で、現在までみつかっていない。
使われた拳銃が違う?
浜川は逮捕されて以降、捜査段階から完全黙秘して起訴事実を全面否認していた。2人目の被害者である高木さんの通帳やクレジットカードを不正に使用したことにも、「(事件を)知らずに使った」と主張した。
しかし、公判でこの主張は認められず、2007年7月5日、最高裁で死刑が確定する。すると浜川は2009年8月21日に再審請求を行い、これが棄却されると2015年6月29日には、第2次再審請求を提出した。だが、これも2017年1月13日に棄却となっている。
そして2022年11月30日、浜川死刑囚は、3回目の再審請求を行った。本事件では使用された拳銃が特定できていなかったが、弁護団は「殺害に38口径の拳銃が使われたとされているが、犯行に使われた弾丸3個を精密測定したところ、35口径だった」としている。
また、「浜川が拳銃を入手した経緯を認定するもとになった ”共犯者の証言” の信用性がなくなった」とも主張している。
浜川邦彦と金東錫の関係
共犯の金東錫はゲーム喫茶を経営していたが、浜川邦彦が経営する喫茶Qが繁盛していると聞き、1993年秋頃、経営の参考にしようと訪れたことから2人は知り合った。
1994年1月頃、金東錫は浜川に借金を申し込んだところ、それまで取引関係がなかったにもかかわらず130万円を貸してくれたことから、浜川に親近感を抱くようになった。
その後、金東錫が130万円を全額返済したことに浜川も感心し、同年5月頃、浜川が手がけていた墓地開発・販売事業が成功すれば、金東錫に対し1000万円を融資すると約束。このようなことから、浜川と金東錫はより親密になっていった。
1993年6月以降、金東錫は被害者の平松さんの借金の保証人になったり、自身も貸し付けたりしていたが、1994年6月以降、平松さんは借金の利息を払わなくなった。その肩代わりや、自身の野球賭博の負けが3千万円あり、それらの返済に窮していた。
やがて平松さんに殺意を抱くようになった金東錫が、浜川に相談したことが事件へとつながった。
裁判:浜川邦彦に死刑確定
浜川邦彦被告は捜査段階から完全黙秘し、起訴事実を全面否認。弁護側は「争点のひとつである拳銃が特定できていない」「金目当てとしながらも動機が解明されていない」と述べ、さらにアリバイがあると無罪を主張した。
2002年12月18日、津地裁は浜川被告に死刑を言い渡した。
金東錫被告は捜査段階で「浜川被告が主導的立場であり、実際に拳銃で2人を殺害した」と供述していた。このことについて裁判長は「自己の刑事責任を軽減するため、あるいは犯行に関与した他の者をかばうため、罪のない第三者に責任をかぶせたり、責任を転嫁する可能性は否定できない」としながらも、周辺者の証言や供述との一致や客観的事実との符号から、これを受け入れた。
2004年3月22日の控訴審判決でも、浜川被告側の上告は棄却された。名古屋高裁は判決理由で「被害者2人の遺体の遺棄場所など、秘密の暴露を含んでおり、信用性は高い」と一審判決を支持。そのうえで浜川被告が殺害を実行したことや、反省の態度を示していないことから「極刑をもってのぞむほかない」と述べ、無罪主張を退けた。
そして2007年7月5日、最高裁で浜川被告の死刑が確定した。裁判長は「大金を得ようと強盗殺人を重ね、2人の生命を奪った罪責は誠に重大」と指摘。アリバイがあるとの被告側の無罪主張を「不合理な弁解で犯行への関与を否定している」と退けた。そして「浜川被告は犯行を提案し、自ら拳銃を発射するなど主導的な役割を果たしており、共犯者との刑の均衡を考慮しても死刑はやむを得ない」と述べた。
金東錫は無期懲役
金東錫被告(45)は、一審・二審で無期懲役の判決を受けていた。検察側は死刑を求刑して上告していたが、最高裁は「死刑の選択を十分考慮しなければならない事件だが、一審・二審判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない」として、検察側の上告を棄却。2005年7月15日付けで無期懲役が確定した。
決定は金被告の2つの犯行について、「大金目当ての著しく悪質な犯行」と指摘。その一方で、
「常に主導的な役割を果たした浜川被告に比べれば、積極的な犯行ではない」
「進んで詳細な自供をした」
「同種の前科がない」
などの事情を考慮して、無期懲役とした一審・二審の判断を追認した。