鳥取連続不審死事件
2004年から2009年にかけ、鳥取県で起こった連続不審死事件。
スナック・ホステスの上田美由紀の周辺では、関係のあった男性6人が次々と不審死していた。そのうち2人については上田の犯行と断定し、彼女は裁判で死刑が確定する。他の4人についても、限りなく黒だったが、立証することができず起訴は見送られた。
野蛮で美人でもない彼女には、なぜか常に交際相手がおり、不審死した6人のうち5人は上田と付き合っていた。
上田美由紀は2023年1月14日、収監されていた広島拘置所にて死亡が確認された。(49歳没)
事件データ
犯人 | 上田美由紀(逮捕時35歳) 本名:李 美由 |
犯行種別 | 連続殺人事件 |
犯行日 | 2004年5月~2009年10月 |
場所 | 鳥取県 |
被害者数 | 2人死亡(他4人不審死) |
判決 | 死刑:広島拘置所にて死亡(49歳没) |
動機 | 金銭搾取 |
キーワード | デブ専 |
事件の経緯
第1事案:新聞記者の男性(自殺)
古川司さん(41歳)は読売新聞鳥取支局に赴任してきた新聞記者だった。
スナックの常連だった彼は、2001年頃、店のホステス・上田美由紀(当時35)と出会う。古川さんには妻子があったが、2003年に上田と交際を始め、やがて同棲するようになった。その頃から古川さんは、周囲に借金してまわるようになった。
2004年5月13日、古川さんは鳥取市内のJR・因美線の線路内で、段ボールに入って横たわり、列車にひかれて死亡する。段ボールには「上田美由紀に出会えてよかった。本当の愛を知った」と走り書きがあり、また勤務先の新聞社には「迷惑をかけた」との遺書らしきものが残されていた。
筆跡鑑定の結果、古川さんの筆跡と一致したため、警察は「自殺」と断定した。
詐欺1:2006年11月15日、鳥取市の知人女性から、息子の借金返済のためと126万円を騙し取った
第2事案:警備会社勤務の男性(事故死)
古田新一さん(27歳)は警備会社に勤務する警備員だった。
上田とは2001年頃、彼女が勤めるスナックで客として出会った。そのうち、古田さんは自身の弟も含め、上田と親しくなっていく。2005年頃には上田宅に同居を始め、上田の子供の面倒も見るようになった。
2007年8月18日、古田さんは上田の家族と鳥取砂丘近くの海辺に貝採りに出かけた。だがこの時、古田さんの姿が見えなくなってしまう。捜索をした結果、沖合約200mの海底に沈んでいる古田さんを発見。すぐに病院に搬送されたが、9日後の8月27日、蘇生後脳症で死亡した。弟によると古田さんは泳ぎが苦手だった。
この件は、事故死として処理され、薬物検査はされなかった。弟によると古田さんはとても気が弱く、上田からDVを受けていたという。ほかにも「実態のない借用書」を書かされたり、給料を取り上げられたり、ロープで縛られるなど、まるで奴隷のようだったという。
古田さんが実家に逃げ帰った時などは、上田が家に乗り込んで無理やり連れ戻したりもした。
第3事案:島根県警刑事の男性(自殺)
島根県警刑事の藤田格さん(41歳)は、2007年頃に上田と知り合った。彼女が勤めるスナックに、捜査で訪れたのきっかけに常連客となったのだ。藤田さんは妻子があったにもかかわらず、上田と交際するようになった。
そのうち勤務態度、女性問題、金銭問題などが県警内で問題視されるようになり、上司より注意を受けていた。
2008年2月、藤田さんは鳥取県内の山中で、首を吊った状態で発見される。現場は雪が積もっていて、足跡が1人分しかなく、解剖でも不審な点はなかったことから自殺と断定された。
第4事案:トラック運転手の男性(殺害)
トラック運転手の矢部和実さん(47歳)は、あるスナックで客同士として上田と知り合った。交際は2008年2月頃より始めている。
2月26日、上田は矢部さんのアパートを訪れて昼食を作った。矢部さんはそれを食べたあと、車で出勤したが、途中で意識がもうろうとなり、自損事故を起こしてしまう。その日の夜には、上田が勧めた缶ビールを飲んだあと眠り込んでしまうが、寝ている間に布団や壁の一部が焼ける火災が発生、煙を吸って数日間入院した。
退院後、アパートに戻った矢部さんは、押し入れが物色されているのに気付き、鳥取県警に被害を届けた。上田に貸した270万円の借用書もなくなっていた。県警は、部屋に残されていたビール缶などを押収した。
2009年4月11日、鳥取県北栄町の沖合約600mの海底で、矢部さんが全裸の水死体で発見される。司法解剖の結果、死因は溺死で体内から睡眠導入剤が検出された。さらに肺から砂が検出されたが、これは通常の溺死では見られない所見だった。
2010年3月3日、鳥取県警は強盗殺人容疑で上田を逮捕した。
詐欺2:2009年4月23日、八頭町の農機具販売会社から代金を払う意思があるように装い、トラクター1台(約220万円相当)を詐取した。4月27日、さらに田植え機とトラクター(計約262万円相当)を詐取した
住居侵入・窃盗:6月24日、鳥取市の知人宅に侵入し現金約35万円などを盗んだ
詐欺3:8月26日、八頭町の金物店から草刈り機など3点(約14万円相当)を詐取した。9月7日、さらに草刈り機など4点(約26万円相当)を詐取した
詐欺4:8月31日、鳥取市の自動車会社から軽自動車4台(約113万円相当)を詐取した
詐欺5:9月18日、鳥取市の農機具販売店から草刈り機など4点(約56万円相当)を詐取した
9月20日、9月22日、さらに草刈り機など4点(約27万円相当)を詐取した
第5事案:電器店経営の男性 (殺害)
鳥取市内で電器店を経営する円山秀樹さん(57歳)は、2009年夏頃に上田と同棲中の安東儀導(当時46歳)に対して53万円相当の家電製品を掛け売りで納品していた。それらの家電製品は、であるにもかかわらず、2人は転売して金に換えていた。
2009年10月7日、鳥取市の摩尼山中腹の摩尼川にて、円山さんが水死しているのが発見される。円山さんの顔には傷があったという。
司法解剖の結果、睡眠導入剤が検出された。状況証拠などから、2010年1月28日に鳥取県警は強盗殺人容疑で上田を逮捕。犯行は前日10月6日とみられた。
県警は、上田が詐欺容疑を重ねていたことをつかんでマークしていたが、殺害当日は尾行に失敗したため、殺害を見逃してしまったと報道されている。
第6事案:無職の男性(病死)
田口和美さん(58歳)は、2009年に脳梗塞を患ってから無職となり、生活保護を受けていた。彼は上田と同じアパートの別棟で暮らしていた。
田口さんは上田が勤務するスナックの客でもあり、上田とは親しい間柄になっていた。彼は合鍵を渡したり、上田の子供の面倒を見るなどしていた。
そんな田口さんだが、10月26日の夜から容態が急におかしくなった。翌朝になって救急搬送された時、田口さんはすでに心肺停止の状態だった。当時の関係者の証言では「10月26日夕方、田口さんの意識が混濁し、上田が田口さんに錠剤を服用させていた」という。遺体は司法解剖され、体内から睡眠導入剤が検出された。
田口さんは9月頃、上田の車を運転中に事故を起こし、上田と金銭トラブルになっていた。
警察は上田との関連を捜査した。しかし、田口さんは以前から「心臓に持病があった」ことや、「死亡と睡眠導入剤との因果関係が不明」なことから、最終的には病死と断定されている。
詐欺6:2009年10月9日、鳥取市の電器店から4回にわたり、家電計9点(約123万円相当)を詐取した。商品は入手翌日に転売するなどした。
詐欺7:2009年10月29日、鳥取市の機械店から除雪機など2点(約51万円相当)を詐取した。11月1日、さらに除雪機1台(約29万円相当)を詐取し、機械は受け取ったその日に市内のリサイクルショップに転売した。
2009年11月2日、上田は鳥取市の知人女性から126万円を騙し取った詐欺容疑で逮捕された。
この件も含め、2010年4月12日までに詐欺8件、住居侵入・窃盗1件、強盗殺人2件で順次逮捕されている。
犯人・上田美由紀の生い立ち
上田美由紀は1973年12月、鳥取県倉吉市で生まれた。
両親と兄1人の4人家族で、幼少期は鳥取県東伯郡大栄町で過ごした。父親は物静かで無口な人だったが、母親は派手好きで悪い噂が絶えない人だった。
小学生の頃から、近所の家に勝手に上がり込み、物を壊したり盗んだりして素行が悪かった。中学時代は、一部の同級生をいいなりにしてコキ使ったり、嘘つきとしても有名だった。近所では、家族は疎まれる存在だったという。
1988年に中学校を卒業後、高校の看護科に進学するも素行の悪さのため中退。その後、ストッキング工場や結婚情報センターの事務員として働いたが、どれも長続きしなかった。
その後、大阪で結婚して1男1女を儲けるが離婚。鳥取に戻って別の男性と再婚して、さらに1男1女が生まれたが別居となっている。
交際男性が次々と不審死
やがて上田は、鳥取市の歓楽街のスナックで働くようになった。このころから上田と交際する男性が、次々と不審死するようになる。
2002年3月には詐欺容疑で逮捕されるが、起訴には至っていない。2003年および2008年には無免許運転で捕まっている。2004年には婚外子1女を儲け、子どもは5人になった。
2009年4月頃から、交際相手の安東と組んで頻繁に詐欺を繰り返すようになる。同年夏頃から、安東と同棲を始めた。
2009年11月2日、知人女性から126万円を騙し取った容疑で逮捕。 これを皮切りに詐欺8件、住居侵入・窃盗1件、強盗殺人2件、合計11件について起訴された。
公判を経て2017年7月27日、死刑が確定。その後、広島拘置所に収監された。
食べ物を喉につまらせ窒息死
上田死刑囚は2023年1月14日、死亡したことが法務省より発表された(発表は15日)。食べ物を詰まらせたことによる窒息死とみられる。
上田死刑囚は1月14日午後4時20分頃、夕食時にむせて倒れた。駆けつけた職員が口の中の食べ物を取り除くも意識を失い、すぐに外部の病院に搬送されたが、午後6時57分に死亡が確認された。
上田死刑囚は死亡の4日前(1月10日)にも昼食中に意識を失って救急搬送されたが、検査で明らかな異常はなく、拘置所に戻った。職員らはその後、注意して様子を見ていたが、自ら購入したピーナツやキャラメルといった硬い物も食べており、「咀嚼できる状態」と判断して食事の内容は変更しなかったという。
同棲していた安東儀導について
この事件では、上田と同棲していた安東儀導(のりみち)(当時46歳)も詐欺罪で逮捕された。
2人は2007年12月、上田の働くスナックで知り合い、すぐに交際を始めた。4カ月後に上田は「3つ子を妊娠した」と嘘をついている。そしてひとりにつき1000万円、合計3000万円を彼に要求したとされる。
その後、安東は仕事と家族を捨てて上田と同棲を始めた。車の営業をしていた彼は穏やかな性格で、誰からも評判は良かった。仕事の成績も優秀だったそうだ。
安東は、家族の大量の洗濯や子どもの送り迎えをさせられるなど、立場は完全に下だった。そして彼は3つ子の妊娠話を、逮捕されるまで信じていた。
裁判長は、力関係で勝る上田が、安東を精神的に従属させる環境で、正常な思考が困難だったと認め、対等の関係だったという検察側の主張を全面的に退けた。
2010年10月20日、鳥取地裁で懲役3年(求刑懲役3年6月)の判決を受け、控訴せず確定した。現在は服役も終え、元の家族とともに暮らしているという。
上田美由紀は、なぜモテた?
この事件がニュースになった当時、「なぜこの女にたくさんの男が寄ってきたのか?」ということが話題になった。その後、取材を通していくつかの理由が判明している。
・体型的に太った女性が好きな男性、いわゆる「デブ専」を狙った
一説には上田はそういうスナックで働いていたという噂がある。上田は「自分が重宝される環境」に上手に身を置いていた。
・びっくりするほど積極的
肩こりのひどい客に「湿布を貼ってあげる」といって車に乗せ、そのままホテルに連れて行った。
・子供のころからいいなりになる人間を見分けていた
一部の同級生を、いわゆる ”パシリ” にさせていた。いいなりにできる人間を見分ける嗅覚に優れている。
・アメとムチで支配するやりかた
暴力的な一面がある一方、子ども達に「お父さん」と呼ばせて甘えさせるなど、”いい気分” にさせていた。出会った当初は、やたらと褒めてくれるそうで、男たちは ”褒め殺し” されていた。
とりあえず、付き合ってまだ浅い段階で金の話をしてくる女は要注意です。普通の人は、深い仲でもないのに金銭を要求してくることはありません
ただ、こういう女性は「彼女を救えるのは俺だけ」という気にさせるのが上手いといいます。そこさえ気を付けていれば、冷静に考えられると思います。
木嶋佳苗と上田美由紀
この事件が発覚する前に、木嶋佳苗の事件(首都圏連続不審死事件)があった。この2つの事件は共通点が多く、同時期に同じような事件が続いたことに世間は驚いた。
似ている点は「太った女性」「次々と男を毒牙にかけた」というところ。
ただ、木嶋は上品なセレブを気取り、自分自身を「ブランド化」しているのに対し、上田は庶民派で暴力的です。犯行の内容は似ているが、やり方は違っている。
この2人の女性死刑囚の比較については、コチラに詳しく説明しています。
裁判
上田は、詐欺8件、住居侵入・窃盗1件・強盗殺人2件の、合計11件について起訴された。
このうち、強盗殺人2件については否認したが、それ以外はすべて認めた。
裁判は物的証拠がない中での、犯行の立証が争点となった
第一審・鳥取地裁 裁判員裁判
2012年9月25日、公判が開始された。上田は、強盗殺人2件については否認した。
検察側は「被害者を呼び出し、睡眠導入剤を飲ませたうえで殺害した。そして、事情を知らずに迎えに来た同居の安東の車で現場を離れた」と主張した。
弁護側は「被害者の最後の接触者は安東で、睡眠導入剤を飲ませたのもAである」と無罪を主張し、2件の強盗殺人について「真犯人は安東である」と主張した。
12月4日、判決公判で鳥取地裁は、上田被告に死刑判決を言い渡した。
第4事案に関しては、「矢部さんへの270万円の借金返済を逃れるため、矢部さんに睡眠導入剤を飲ませ、意識がもうろうとしたところを海に誘導し、溺死させた」、第5事案に関しても「円山さんへの53万円の代金支払いを逃れるため、円山さんに睡眠導入剤を飲ませ、意識がもうろうとしたところを川に誘導し、溺死させた」と、2件ともに強盗殺人であると認定した。
裁判長は、「犯行は、冷酷・身勝手で悪質性が顕著。反省や謝罪もなく、極刑もやむなし」と指弾。物的証拠はなかったが、「犯人が上田被告でなければ、合理的に説明できない」と指摘した。
上田は判決を不服として、控訴した。
最高裁で死刑確定
2014年3月20日、広島高裁松江支部は、強盗殺人2件に関して控訴を棄却、第一審の死刑判決を支持した。
そのため上田は即日上告したが、2017年7月27日、最高裁が棄却を決定、これにより、上田の死刑判決が確定した。