「関西青酸連続殺人事件」の概要
2007年~2013年にかけ、高齢男性が相次いで殺害される事件が起きた。逮捕されたのは筧千佐子。
彼女は結婚相談所で知り合った高齢男性の妻となり、夫を青酸カプセルで殺害するたび多額の遺産を手にする「後妻業の女」だった。
総額8億円もの大金を相続した千佐子だが、金融の先物取引や株に手を出し、すべて消失したばかりか借金を作ることになったという。立件できただけでも4人、全体では10人殺害したともいわれる稀代の悪女である。
事件データ
犯人 | 筧千佐子(逮捕時68歳) |
犯行種別 | 連続殺人事件 |
犯行日 | 2007年12月18日~2013年12月28日 |
場所 | 京都府・大阪府・兵庫県 |
被害者数 | 4人死亡 |
判決 | 死刑:大阪拘置所に収監中 |
動機 | 遺産目当て |
キーワード | 後妻業、青酸カプセル |
事件の経緯
筧千佐子は後妻業の女だった。後妻業とは「財産目当て」で高齢男性を狙い、入籍あるいは内縁関係になったあと、遺産を根こそぎ狙うやり方をいう。作家の黒川博行氏が、2014年に同名の小説を発表して、この言葉を世の中に定着させた。
手口としては、まず結婚相談所に登録。そして、標的となる高齢男性を探す。結婚相談所というのは比較的富裕層の男性が多く、個人情報も筒抜けなのである。
それから結婚(または内縁関係)まで持ち込み、他殺とバレないように殺害。遺産は妻に相続されるというわけである。
第1の殺害:末広利明さん
千佐子(当時58)は2005年に結婚相談所に登録した。ここでひとりの男性と知り合う。
それは神戸市北区の末広利明さん(当時79)だった。ふたりは交際を始めたが、2007年12月、末広さんは神戸市中央区の路上でいきなり倒れ、救急搬送される。末広さんは意識がなく、体はけいれんしていた。119番した千佐子は救急車に同乗し、病院に同行した。
末広さんはなんとか一命を取り留め、奇跡的に退院する。しかしその後も容体は安定せず、入退院を繰り返していたが、2009年5月に亡くなった。死因は「胃の悪性リンパ腫」と診断された。
末広さんは過去に結核を患っており、当初はその治療薬の大量服用が原因で倒れたとみられていた。しかし、のちにその可能性がないことが判明。中毒学の専門家によると「青酸中毒と矛盾しない状態」という結論だった。
千佐子は、末広さんから投資目的で4000万円を借りていて、末広さんが倒れたその日こそ、借金の返済予定日だった。
第2の殺害:本田正徳さん
2011年5月、千佐子(当時64)は結婚相談所の紹介で、大阪府貝塚市の本田正徳さん(当時71)と知り合い、交際を始める。やがて2人は内縁関係となった。
本田さんは2012年3月9日午後5時頃、大阪府泉佐野市でバイクの運転中に倒れたため救急搬送されたが、まもなく死亡が確認された。本田さんは当初、病死とされていた。
本田さんは倒れる直前、千佐子と喫茶店で会っていた。
事件の3か月前、千佐子は本田さんに「死亡の際には(千佐子に)全財産を遺贈する」という公正証書を作成させている。これにより、千佐子は約2000万円相当を相続している。
のちに、本田さんの体内から「致死量の2倍に当たる青酸化合物」が検出されたことが判明している。
第3の殺害:日置稔さん
千佐子(当時65)は2012年秋、兵庫県伊丹市に住む日置稔さん(当時75歳)と結婚相談所で知り合い、内縁関係となった。
2013年9月20日午後7時頃、日置さんは千佐子と兵庫県伊丹市にある飲食店を利用し、店を出たあとの駐車場の車内で死亡した。
県警は検視したが、男性がガンを患っていたこともあり、死因をガンと判断。しかし、ガンはほぼ完治していたことから、遺族は兵庫県警伊丹署に「急に倒れて亡くなるのはおかしい。交際して間もない千佐子に遺産が渡っている」と不審点をあげ、くり返し捜査するよう求めた。
しかし兵庫県警は ”病死” という判断を変えず、司法解剖では毒物検査もしていなかった。
この事件の3週間前、日置さんは「死亡の際には千佐子に全財産を遺贈」との公正証書を作成していた。そのため、千佐子は1500万円以上の遺産を手にした。
第4の殺害:筧勇夫さん
末広さんが倒れたのと同じ2007年、千佐子は別の結婚相談所に入会している。
この結婚相談所は「入会金1万円、登録料1万円、毎月の会費が3000円。結婚が成立したら30万円の謝礼を払う」というシステムになっていた。
2013年6月、この結婚相談所を通して、千佐子は京都府向日市の筧勇夫さん(当時75歳)と出会った。ふたりは交際を始め、11月1日に結婚した。
ところが、勇夫さんは翌12月28日、自宅で倒れ死亡。千佐子は「2階でインターネットの株取引をしていた夫の様子を見に行くと、倒れていた」と説明した。
その後、千佐子は勇夫さんの預金を引き出そうとしたが、京都市内の信用金庫は支払いを拒否。理由は、勇夫さんの死が捜査の対象となっていたからだった。
千佐子は2014年6月、同信用金庫に対して「相続分425万円の支払いを求める訴え」を京都地裁に起こしたが、逮捕後の12月5日に取り下げている。
また、勇夫さんの500万円の生命保険についても、同様に受け取ることはできなかった。
事件の発覚
京都府警の捜査員は、筧勇夫さんが千佐子(当時67)と結婚して間もなかったことに疑問を抱いた。また、過去の相手男性の印鑑がいくつも出てきたことから、疑惑はさらに深まることとなった。
司法解剖の結果、勇夫さんは食後1時間以内に死亡したことが判明、体内からは青酸化合物が検出された。
これを受けて、大阪府警も捜査を開始した。
2014年5月頃、本田さんの事件で司法解剖をした大学が、保存していた血液から致死量の2倍の青酸化合物を検出した。千佐子は当時、報道陣に対して「青酸など知らない。どうやったら手に入るか教えてほしいぐらい」と、関与を否定していた。
しかし捜査の結果、夏頃には、向日市の自宅のプランターにあったビニール袋から、青酸が検出された。入手方法は、「20年前、当時の夫が経営していた印刷工場の出入り業者からもらった」という。それを小瓶に入れ、財布にずっと持ち歩いていたという。
業者名に関しては「お世話になった人だから、口が裂けても言えない」として、明かしていない。
京都府警は2014年11月19日、筧勇夫さん殺害容疑で千佐子を逮捕、大阪府警は2015年1月28日、本田さん殺害容疑で千佐子を再逮捕した。
千佐子は交際相手を殺害して得た金で不動産を購入していた。ハイリスクな金融商品への投資にも使っていたが、多くを失敗し1000万円以上の借金を抱えていた。
ほかにもあった殺害疑惑
千佐子のまわりでは他にも不審死が多く、それらは追送検された。しかし供述以外に客観的証拠が乏しく、逮捕を見送らざるをえなかった。
供述した以下の4件すべてに共通しているのは、「カプセル入りの青酸を飲ませて殺害した」こと、そして「警察は病死と判断し、司法解剖は行われなかった」ことである。
- 2005年3月、兵庫県南あわじ市内の牛舎で、内縁関係の牧場経営の男性(当時68)を殺害。
千佐子は経理を担当し、殺害前から売上金の一部を自分名義の口座に移し、遺産の一部も受け取っていた。 - 2008年3月下旬、結婚相談所を通じて交際していた、奈良市の元紳士服店経営の男性(当時75)を自宅で殺害。
- 2008年5月下旬、結婚相談所を通じて結婚した、大阪府松原市の農業の男性(当時75)を自宅で殺害。
- 2013年5月、架空の投資話を持ちかけて借りた約300万円の返済を免れるため、内縁関係にあった堺市の元造園工事会社経営の男性(当時68)を殺害。
「奈良市の男性」と「大阪府松原市の男性」は、生前に公正証書遺言を作っていた。そのため2人の死後、合わせて3億円を超える遺産を受け取っていた。
犯人・筧千佐子の生い立ち
筧千佐子は1946年11月28日に長崎県で生まれたが、母親は未婚だった。
そのため、彼女は福岡県北九州市の山下家に養子に出され、そこで育った。山下家は父親が大手製鉄会社に勤め、母親は専業主婦をしていた。千佐子はこの山下家で厳格に育てられた。
育ての母親は、若い時に子宮の病気をして子どもの産めない体だった。千佐子はこの両親について「良い両親だった。今でも尊敬している」と逮捕後に語っている。
その後、友人とともに旅行した鹿児島県桜島で、大阪府貝塚市の男性と出会い交際開始。双方の家族に反対されながらも1969年に結婚し、1970年に長男、1971年に長女を設けている。
夫は印刷会社を立ち上げたが、経営状態は良くなかった。1994年、夫が54歳で借金約2千万円を残したまま病死した。
本事件で使用した青酸化合物は、この印刷工場の出入り業者から手に入れたという。
2005年、千佐子は結婚紹介所に登録し、獲物となる男性の物色を始めた。
そして2007年~2013年にかけて4件の殺害に関与したとされ、死刑が確定したが、千佐子は他にも4件の殺害について供述している。しかし、当時は病死と断定されたため司法解剖もしておらず、証拠不十分で逮捕もされなかった。
千佐子は、総額8億円もの大金を相続している。その金の大半は金融の先物取引や株に投資していたが、高リスクの銘柄ばかりに手を出し、すべて消失したうえに借金を作ることになった。
現在は、大阪拘置所で死刑の執行を待つ身である。
裁判
2017年6月26日の初公判で、筧千佐子被告は4事件いずれについても「全て弁護人に任せてあります」と話した。検察側は以下の要旨を述べた。
- 千佐子には多額の借金があった。
- すべて遺産狙いの殺害事件であり、2人には公正証書遺言をつくらせていた。
- 4人とも事件発生時には、千佐子と一緒にいた。
- 全員が青酸化合物による殺害であり、うち2人は実際に体内から検出されている。
これに対し、弁護側は千佐子は犯人ではないとの主張をした。
- 被害者が、本当に青酸を飲まされて亡くなったのか疑問がある。
- 千佐子被告は4人に対し、殺意がない。
- 千佐子被告は認知症を発症していて、責任能力は無い。裁判を受けることができない状態。
- マスコミの報道により、捜査した側に余談や偏見が生じた危険性がある。
そして「厳しい目でチェックしてほしい。死刑は憲法違反の処罰である」と裁判員に語りかけた。
認知症については、京都地裁が2016年4月22日~9月30日に精神鑑定を実施、「千佐子被告は軽度の認知症」と診断されたが、「責任能力・訴訟能力に問題はない」とされている。
筧勇夫さん殺害の審理
筧勇夫さんの審理で、検察側は「結婚した直後から別の男性と交際を始め、夫を青酸入りカプセルで殺害した。それができたのは千佐子被告のみで、本人の自白もある。自宅のプランター内の袋から微量の青酸が検出され、堺市内の別宅ではカプセルが見つかった」と明らかにした。
一方、弁護側は「夫は自殺や病死だった可能性があり、殺人事件とは断定できない。千佐子被告は青酸を飲ませておらず、証拠もない」として争う姿勢を示した。
30日の第4回公判で、検察側は2013年12月に夫から送信されたメールに「ともに健康でこれからも楽しい人生を過ごしていきたい。明るい老後に向けて頑張ろう」と書かれていたことを明らかにし、弁護側が主張する自殺の可能性を否定した。
7月10日の第8回公判、千佐子被告は検察側から「夫に毒を飲ませて殺害したことを認めるか」と尋ねられ、「はい」と答えた。殺害の動機は「夫が前に交際していた女性に比べ、金銭面で差別されているという思いがあり、腹立たしかった」などと説明した。
青酸化合物の入手先については「最初の夫が経営していた印刷会社の出入り業者にもらった。商売をやめたときに捨てたらよかった」と証言。殺害方法については「健康食品だと偽り、たぶんカプセルに入れて飲ませた」と答えた。
千佐子被告は「だいぶ認知症が進んでいるみたい」と述べ、具体的な質問には「詳しいことは覚えていない」とくり返す場面もあった。一方、「生きていくのがしんどい。明日、死刑といわれたら喜んで死んでいく」と話したりもした。
13日の第10回公判で、精神鑑定した医師が「事件当時、千佐子被告に精神疾患はなかった」と証言。認知症の発症は「逮捕後の2015年頃」とした上で、軽度の認知症で記憶障害があるが、現在の訴訟能力については、治療薬を飲んでいることなどから問題はないとした。
千佐子被告の性格については「明るく、すぐに人間関係を構築するが、嘘をくり返す傾向がある」と分析。供述の一部について「意図的に嘘をついている可能性が否定できない」とも述べた。
本田正徳さん殺害の審理
7月31日の第13回公判から、本田正徳さん殺害事件の審理が始まった。
検察側は冒頭陳述で、千佐子被告について「被告は内妻で、怪しまれず毒を飲ませることができた」と指摘。末広さんが全遺産を移譲する内容の公正証書を作成後も、千佐子が ”複数の男性と交際していた” として、「遺産目当てで毒殺した」と主張した。
弁護側は、「殺意はなく、犯行時は認知症で責任能力がなかった」と主張。「病気などで死亡した可能性がある。男性の死亡直前に(千佐子被告が)一緒にいたという明らかな証拠がない」と犯人性も否定した。
8月7日の第17回公判では、千佐子被告は、検察側に対して犯行を認めたかと思えば、弁護側には犯行を否定するなど、発言内容が二転三転した。青酸を摂取させた方法について「食べ物に混ぜた」から「カプセルだと思う」と内容が変わり「複数、殺めているので、そのときの状況によって考えた」と話した。
末広利明さん殺害の審理
25日の第20回公判から、末広利明さんの事件の審理が始まった。
検察側は、救急搬送先の検査データなどを精査した結果、「青酸中毒と矛盾しない症状だった」と指摘。事件の2年前から投資名目で約4000万円を借りており、「当日は返済の日だったが、金がないので毒殺して返済を免れようとした」と述べた。
弁護側は司法解剖がされていないことから、「末広さんから青酸成分が検出された証拠はない」と無罪を主張し、殺意や動機も否定した。認知症を理由として訴訟能力を争う姿勢も示した。
午後、末広さんが搬送された病院の医師が証言台に立ち、「当時は末広さんが患っていた肺結核の治療薬による薬物中毒と判断した。だが約7年後に事件が発覚し、精査し直したところ、「症状を全て説明できるのは青酸中毒」と述べた。
29日の第22回公判で、末広さんの長女と二男が出廷し、倒れる直前まで末広さんが元気だったことを証言した。長女は、金銭の返済日に倒れたことを知った時、千佐子被告の連絡先がわかるものを探し、金銭貸借終了書の下書きや領収書に千佐子の名前を見つけたという。
2008年2月以降、末広さんから借金をしていて返済する意思もある、などと書かれた千佐子の手紙が3通届き、長女は「6月に直接会って小切手と現金を手渡してもらった」と述べた。
9日の第26回公判で検察側は、公判で4人の医師が「青酸中毒とみて矛盾しない」と証言したことや、千佐子が事件への関与を認めていたことを指摘。「千佐子被告は金銭の返済を免れるため、青酸を飲ませ毒殺した」と述べた。
弁護側は、”毒物検査を実施しておらず、体内から青酸が検出された証明ができない” ことから、「病気や他の薬物中毒の可能性を排除できない」と批判。動機についても、「投資として預かったお金で返済義務はない。さらに後日、金銭を支払っており、返済を免れようとした意思はない」と検察側の主張を否定した。
自白についても「認知症の影響で記憶のすり替えや思い込みがあり、法廷での供述は信用できない。被告に訴訟能力はない」と無罪を主張した
日置稔さん殺害の審理
19日の第27回公判から、日置稔さん殺害事件の審理が始まった。
検察側は「日置さんは、千佐子被告と一緒にいた時に青酸中毒になった」「救急搬送された時、青酸中毒の特徴的所見が認められる」と指摘した。さらに「日置さんは、財産を千佐子被告に渡す内容の遺言公正証書を作成したばかりで死亡した」と述べた。
弁護側は、「日置さんの体内から青酸が検出されたという証明がされていない」としたうえで、千佐子被告は、認知症で刑事責任能力がないと主張した。
20日の第28回公判で、日置さんの救命措置を行った女性医師が出廷。検視では死因を特定できる所見がなかったため、「(当時の)千佐子被告の話や(男性の治療時の)カルテから、明確に断定をしたわけでないが死因を肺ガンとした」と述べた。
21日の第29回公判で、日置さんの主治医が「肺ガンの治療中だったが、事件3日前の診察でも異変はなかった。急死したと聞いて疑問があった」と話した。
22日の第30回公判で、毒物の専門家が、日置さんが重度の意識障害に陥って急死したことを「シアン(青酸)中毒だと説明できる」と証言した。
26日の第32回公判でも、千佐子被告は発言内容が二転三転している。
日置さんのことは「仏さんみたいないい人だが、お金もないし、甲斐性もなかった」と供述した。
検察側には殺害方法について「毒しか考えられない。健康食品のカプセルに入れた」とし、「一日も早く死刑にしてください」などと述べた。かと思えば「日置さんはお金がなくて殺してもメリットがなく、恨みもなかった。病気で死んだと思う」と真逆の供述をした。
一審判決は死刑
2017年11月7日、判決公判で京都地裁は、千佐子被告に死刑を言い渡した。
裁判長は、筧勇夫さんの事件で自宅プランター内の袋から微量の青酸が検出されており、「被告は青酸を所持し、事件発生時に被害者と一緒にいた。遺産も取得しようとしており、犯人は被告しか考えられない」と述べ、青酸入りカプセルを飲ませて殺害した、と認定した。
さらに本田さんの事件についても、殺人罪の成立を認定。「死亡直後から遺産取得を始め、約1600万円を得た。生活費目的という主張は不自然」とした。
末広さん、日置さんの両事件についても、「搬送時の所見から、青酸中毒以外の可能性は極めて低い」と指摘した。
認知症については、供述は二転三転しても青酸を飲ませて殺害した、という核心部分では一貫していると判断。「犯行は計画的、当時は認知症ではなく完全責任能力があった。現在も軽症で訴訟能力はある」と弁護側の主張を退けた。
そして「被害者からの信頼を利用し、青酸化合物をカプセルに入れて健康食品などと偽って飲ませた。金銭欲のために人命を軽視した非常に悪質な犯行で、結果は重大。極刑を選択せざるを得ない」と、量刑について説明した。
弁護側は納得できないとして、即日控訴した。
控訴審:大阪高裁
2019年3月1日に控訴審初公判でが開かれた。
検察側は「訴訟能力があったことは明らか。精神鑑定の結果から完全責任能力もあった」とし、控訴棄却を求めた。
弁護側は改めて起訴内容を否認し、全事件について無罪を主張した。
千佐子被告について「一審では直前の質問も覚えていなかった。弁護方針も理解できていない」と訴訟能力がないことを強調し、公判を停止するか新たな精神鑑定を実施するよう求めた。しかし裁判長はこれを却下し、即日結審した。
5月24日、判決で大阪高裁は弁護側の控訴を棄却、一審の死刑判決を支持した。弁護側は再度の精神鑑定の請求と被告人質問の実施を申し入れたが、裁判長は却下した。
裁判長は判決理由で、被害男性らの病死や自殺などの可能性を否定した一審の事実認定を「正当」と指摘。一審後の認知症の影響についても、訴訟能力に問題はないと退けた。
弁護側は高裁判決を不服とし、即日上告した。
上告審:最高裁
2021年6月8日の最高裁弁論で弁護側は「死亡原因が青酸とするには、科学的根拠が不十分」と指摘した。また、千佐子被告は事件当時から認知症で責任能力はなかったとし、さらに現在は「症状が進行し訴訟能力を欠いている」という理由から、公判を停止して公訴を棄却するよう求めた。
検察側は、事件当時の完全責任能力を認めた一・二審の判断は正当と主張。現在の千佐子被告の状態も「問題行動はなく、精神状態に大きな変化はない」と反論した。
2021年6月29日、最高裁判決で裁判長は、一審・二審の死刑判決を支持し、上告を棄却。これにより、筧千佐子の死刑が確定した。
裁判長は、「認知症なのに公判を止めなかったのは違法だ」とする訴えも退けた。そして千佐子被告は遺産を取得できる状態で殺害し、財産を得ようとしたと認定。”将来を共にする相手” と信頼させたうえで猛毒入りカプセルを服用させており、「計画的かつ巧妙。強固な殺意に基づき冷酷」と非難した。
そして、約6年間に4回も犯行を繰り返しており「人命軽視の態度は顕著」とした上で、千佐子被告に前科がなく高齢である点などを考慮しても「死刑はやむを得ない」と結論付けた。
現在は大阪拘置所に収監されている。
意外と多い女性の連続殺人鬼
本事件が発覚した時期、似たような「男性から大金を奪っては殺害する悪女」が、続けざまに出現している。本事件を含む以下の3事件は、いずれも犯人に死刑が確定した。
- 2004年~2009年:鳥取連続不審死事件(上田美由紀・死刑)
- 2007年~2009年:首都圏連続不審死事件(木嶋佳苗・死刑)
- 2007年~2013年:関西青酸連続殺人事件(筧千佐子・死刑)
おそらく見逃されているだけで、過去にもっと同様の事件が起こっていたのではないだろうか?なぜなら、この3件の連続殺人事件も、当初は ”自殺” や ”事故死” で処理されていたからである。
どの事件も発覚がかなり遅れています。多分「女がそんな恐ろしいことはしないだろう」という先入観のせいかもしれません。被害男性たちは司法解剖さえされず、事故死として処理されています。そのおかげで、あとから捜査しようにも証拠がないのです。
本事件では筧勇夫さんが ”結婚後すぐ死んでいる” ことに京都府警が疑問を抱いたおかげで発覚しました。もしこれがなければ、筧千佐子はもっと犯行を重ねていたかもしれません。