京都アニメーション放火殺人事件|日本犯罪史上、最多の犠牲者数

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青葉真司/京都アニメーション放火殺人事件 日本の凶悪事件

「京都アニメーション放火殺人事件」の概要

2019年7月18日、京都アニメーションで起きた放火殺人事件は、36人が死亡、33人が重軽傷を負う大惨事となった。日本における大量殺人は、これまで1938年に30人を殺害した「津山事件」が最多であったが、本事件はこれを超えてしまった。

犯人の青葉真司(当時41歳)は、勝手な思い込みから京アニに恨みを募らせ、ガソリンをまいて火を点けた。これにより建物内は一気に炎に包まれ、逃げ場を失った社員の約半数が亡くなった。青葉自身も大やけどを負い、一時は瀕死の状態だったが、懸命の治療により回復。予定通りに2023年9月5日から裁判員裁判が開始され、2024年1月25日の第一審判決で死刑が言い渡された。

事件データ

犯人青葉真司(当時41歳)
犯行種別大量放火殺人事件
犯行日2019年7月18日
犯行場所京都府京都市伏見区桃山町因幡15-1
「京都アニメーション第1スタジオ」
被害者数36人死亡、33人重軽傷
判決死刑(一審判決)
動機思い込みによる逆恨み
キーワード京アニ

事件の経緯

事件直前の青葉真司/京都アニメーション放火殺人事件
犯人の青葉真司

コンビニ強盗で懲役3年6月を受けた青葉真司(当時37)は、2016年1月、満期で刑務所を出所した。出所後は生活保護を受けながら、さいたま市のアパートで暮らすようになった。

このアパートで青葉は住人と騒音をめぐるトラブルをたびたび起こした。事件の4日前にも、ある住人の部屋に怒鳴り込み、「殺すぞ!こっちはもう余裕ねえんだからな!」とすごんでみせた。少年時代から恵まれない家庭環境で生きてきた青葉は、心までもすさんでいたのだ。

2018年の秋には京都アニメーション(以下、京アニ)に対して「小説をパクられた」「最初から原稿を叩き落として裏切る気だった」「絶対に許さん」などと、インターネット掲示板に一方的に恨みを募らせる書き込みをしていた。青葉はその恨みを晴らすため、2019年7月15日、京アニのある京都へ向かった。

京アニでは、「京都アニメーション大賞」として一般から小説を公募している。受賞作はアニメ化などされることになっており、青葉はこの賞に応募していたが、一次の形式審査で落選していた。

ルポ・京アニを燃やした男
京アニに向かう青葉真司/京都アニメーション放火殺人事件
京アニに向かう青葉真司

7月18日午前、青葉はガソリンスタンドで携行缶2個分のガソリンを購入し、これとバケツ2個、包丁・ハンマーを持って、京都市伏見区にある京都アニメーション第1スタジオに向かった。「京都アニメーション大賞」に応募した作品の内容を盗まれたと思い込んだ青葉は、あろうことかスタジオに放火しようと考えていたのだ。

あだとなった、らせん階段

京都アニメーション放火殺人事件・事件現場
事件直後の京都アニメーション第1スタジオ

午前10時31分頃、玄関から入った青葉は、バケツ2個を使って10リットルから15リットルのガソリンを建物1階のらせん階段付近にまいた。そして、仕事中のスタッフ数名に「死ね!」などの暴言を叫びながらライター(点火棒)で着火すると、「ドーン」という爆発音とともに爆燃現象が発生した。

爆発音は2回鳴ったといい、近所は騒然となった。午前10時35分頃から、「京都アニメーションから黒煙が上がっている」という内容の119番通報が複数あり、それは計22件におよんだ。

京アニ事件
京都アニメーション放火殺人事件・建物断面図

この建物(地上3階建て)は、玄関を入ってすぐの場所に1~3階をぶち抜くようにらせん階段がある。これが煙突の役割を果たし、炎が一気に3階まで通り抜けたことで被害の拡大を招いた。建物内は、わずか1分ほどで炎に包まれたと考えられている。消火に当たった消防隊員も、テレビの取材に「経験したことのない火災」と表現した。この火災で3階建て約690平方メートルが燃え、出火から約5時間後に鎮圧状態になった。

当時、スタジオには社員が約70人働いており、1階で2人、2階で11人、3階と屋上への階段で20人、計33人が遺体で見つかった。負傷者は35人(うち重傷10人)で、男性18人・女性17人だった。

スタジオはスプリンクラーの設置義務の対象外で設置されていなかったが、消防関係者によると、スプリンクラーや消火栓、消火器などはガソリン火災に対しては何の役にも立たないという。

大やけどを負ったまま逃走

京都アニメーション放火殺人事件

青葉は放火したあと逃走したが、自らも重いやけどを負っていた。その後、助けを求めようとしたのか、スタジオから100mほど離れた一般住宅のインターホンを押している。住人の女性が玄関に出ると、赤いTシャツにジーンズ姿の青葉が倒れていて、はだしの足は血まみれ、髪は焦げ、顔にはすすが付いていた。両腕はひどいやけどで皮がむけ、服には火種がくすぶっていた。

青葉は、現場から逃走した理由を「死にたくなくて逃げた」と供述している。

ほどなくして駆け付けた警察官に取り囲まれた青葉は、「小説を盗まれたのでやった」「(ノズルが長い)多目的ライターを使った」などと説明したという。その後、青葉は京都市内の病院に搬送された。全身の93%に最も重い3度熱傷を負い、大部分は皮下組織にまで達していた。

担当医は、捜査機関から「犠牲者や遺族のためにも、刑事裁判を受けられるまでに回復させ、事実を明らかにしたい」という思いを託されていたが、「正直、助からないと思った」という。だが、懸命の治療により、事件から約1カ月後の8月中旬、青葉は病室で意識を取り戻した

取り調べを受けられるまでに回復

青葉真司/京都アニメーション放火殺人事件

青葉に施された治療法は「自家培養表皮移植」と呼ばれるもの。やけどを負わなかった腰部のわずかな皮膚の細胞を培養で増やし、シート状に加工して移植。事件から2カ月後の9月中旬までに計5回の移植手術を終えた。

治療のために気管切開した青葉は、9月中旬に発声用のチューブを挿管された。これにより声が出せるようになった時には、感極まって泣いた。そして医療スタッフに対して「こんな自分でも、必死に治療してくれる人がいる」と感謝の言葉を伝えたという。

翌10月上旬には呼吸器を外し、車イスでのリハビリや食事の経口摂取が始められるまでに回復。2020年5月27日の逮捕後は、医療体制の整う大阪拘置所に勾留されながらリハビリを続けた。取り調べは拘置所の居室のベッド上で行われ、容疑については認めている。また、犠牲者の数は「2人ぐらいと思っていた。36人も死ぬと思わなかった」と供述している。

刑事責任が問えると判断

青葉は犯行について「ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思った」と供述。動機は、事件前から主張している通り、「小説(応募作品)を盗まれた」と話している。しかし、京都府警が応募作品の内容を確認し、これまでに公開された京アニ作品と比べたところ、いずれも盗作と受け取れるような類似点は見当たらなかったという。

京アニ側も、盗用については明確に否定している。青葉が応募したとみられる作品は、長編と短編の1本ずつで、形式的な不備があったため、京アニ関係者が目にすることなく落選している。

地検は事件当時の精神状態を調べる必要があるとして、2020年6月9日から3カ月間の鑑定留置を実施。さらに3か月延長し、12月11日に終了した。その結果、「刑事責任能力が認められる」と判断され、12月16日に起訴された。その後、弁護側が請求した2度目の精神鑑定も、2022年3月に終了している。

2023年5月12日、京都地裁は裁判員裁判の初公判を、2023年9月5日に開くことを明らかにした。

青葉真司の生い立ち

少年時代の青葉真司/京都アニメーション放火殺人事件
少年時代の青葉真司

青葉真司は1978年5月16日、埼玉県浦和市に生まれた。家族は両親と兄、妹の5人。父親は再婚で、前妻との間に6人の子どもがいる。母親は幼稚園の教諭をしている時、子供を通じて知り合った父親と不倫関係になり、駆け落ちした末に結婚。やがて青葉を含めた3人の子供が誕生した。

父親は、前妻や前妻の子に対する支援もせず、会いに行くことすらなかった。ハンサムでモテたが、金にも女性関係にもだらしなく、子供たちのことは放ったらかしだった。

青葉が少年の頃、家族は埼玉県さいたま市緑区(旧・浦和市)の古びたアパートで暮らしていた。青葉と同級生の息子を持つ主婦は、「小学校のときは明るい元気な子。うちの子供とも遊び仲間でした」と話した。

駆け落ちまでして結婚した両親だが、青葉が9歳の時に離婚する。母親は長男を引き取り、父親が青葉と妹を引き取って別々に暮らし始めた。やがて、青葉はさいたま市内の中学に入学するが、明るかった性格に変化が訪れる出来事が起こる。

笑顔を奪った私生活

学生時代の青葉真司/京都アニメーション放火殺人事件

青葉が中学生になった1991年、タクシーの運転手をしていた父親が勤務中に人身事故を起こし大けがを負ってしまう。それが原因で会社はクビ、一時期は仕事もせずにフラフラしていたため、経済状態は厳しくなった。このころからよく親子喧嘩するようになり、その怒鳴り声は近所中に聞こえるほどだった。

中学2年の時、家賃を滞納したことでアパートを追い出され、引っ越しを余儀なくされた。こうした荒れた生活環境は、天真爛漫だった青葉の性格も変えていく。転校した中学校に青葉はなじめず、不登校になった。当時の同級生は「別に挨拶するわけでもなく、ただ黙っていて暗かった」と話す。青葉には、一緒に遊びに行くような友達もいなかった。

日影のこえ メディアが伝えない重大事件のもう一つの真実

だが、中学を卒業して埼玉県内の定時制高校に通いはじめると、同級生で埼玉県庁の文書集配アルバイト仲間でもある2人と仲良くなるなど、一見、平穏な日々を取り戻す。このころの青葉は、鉄道の写真を撮ることを趣味にしていた。

アルバイト先の上司は「とても真面目な好青年で、トラブルもなく仲良く働いていた」と振り返る。このままいけば、まともな大人になりそうだと感じたという。

コンビニ強盗で懲役刑

青葉真司/京都アニメーション放火殺人事件

高校卒業後、青葉は定職には就かず、埼玉県春日部市内で一人暮らしをしながらコンビニのアルバイトなど非正規の職を転々とした。

だが、1999年12月、父親がさいたま市緑区のアパートで自殺。人身事故を起こして以降、人生を立て直すことが出来なかったのだ。さらに、父親の死から5年後の2004年には妹も自殺する。家族2人の自殺が影響したのか、青葉自身も犯罪に手を染めるようになる。

兄も自殺していたことがのちに判明している。また母親は離婚後、別の家庭を持ったため疎遠になっていた。

2006年9月、青葉は春日部市内で女性の下着を盗んで逮捕となり、執行猶予付きの判決を受けた。その後、仕事も派遣切りにあい、2008年12月に茨城県常総市の雇用促進住宅に入居した。

このころから青葉は小説の執筆を始め、2ちゃんねるの掲示板などで、有名な編集者や京アニの女性監督とやりとりをしていると誤解するようになる。そして、やりとりを通じて ”編集者にほめられ、女性監督とは恋愛関係にある” という妄想を抱いた。

また、掲示板に政治的な書き込みをしたあと、偶然ある政治家が死亡したことをきっかけに、「公安から監視されている」との妄想も抱くようになった。

その後、2012年6月には茨城県坂東市内のコンビニに包丁を持って押し入り、現金2万円を強奪。動機について「仕事上で理不尽な扱いを受け、社会で暮らしていくことに嫌気が差した」と供述した。この事件では、懲役3年6月の実刑判決を受けた。

服役中は刑務官にくり返し暴言を吐いたり、騒ぐなどして精神疾患と診断された。

捜査関係者は、「何でも他人のせいにする傾向がある」と、青葉の性格面の問題を指摘している。

京アニに一方的な恨み

2016年1月の出所後は、精神疾患の治療として薬物療法を受けるようになり、一時期、さいたま市浦和区にある更生保護施設に入所した。だが保護施設にいられるのは、働き口の有無を問わず半年と決まっている。2017年頃、青葉は施設を出ると、生活保護を受けながら近所のアパートで暮らすようになった。

このアパートでも、大音量で音楽を流すなどの迷惑行為で住民とトラブルになっていた。昼夜逆転生活を送り、毎夜午前0時4分に目覚ましを鳴らした。このころからネット掲示板への書き込みに執心するようになり、2018年秋頃には「(京アニに)自分の作品をパクられた」「テロを起こす」などの書き込みをしていた。

青葉がパクられたと主張しているのは、「ツルネ」第5話で弓道部員がバーベキューのための安売り肉を買うシーンだという。あらすじには無関係の日常を描いた場面であるが、そもそも青葉の作品は一次の形式審査で落選していて、京アニ関係者が目にすることはなかった。

同じアパートのある住人は、別の部屋の物音を勘違いされて激しいクレームを受けている。青葉は部屋の壁に物を投げたり、ドアのノブをガチャガチャ回したりしてきた。誤解であることを説明をしようとドアを開けると、目が合った途端に胸ぐらをつかまれ「お前、殺すぞ!」とすごんできた。

この時、青葉は「こっちはもう余裕ねえんだからな!」と殺気立っていて、本当にやりかねない感じだった。この4日後に京アニ事件を起こしたことを知った時、住人は恐怖でゾッとしたという。

アパートでの騒動の翌日(15日)、青葉は京都に向かった。そして17日午前にガソリン携行缶を購入、午後には京アニのスタジオを偵察している。その日は野宿して翌日(2019年7月18日)、本事件を起こした。36人が死亡したこの事件は、津山事件(1938年)の犠牲者数30人を超えて、日本犯罪史上、最多の犠牲者数となった。

「京アニ」犠牲になった人たち

京アニ放火殺人事件・献花台
献花台

京都アニメーション」は1981年創業で、主にテレビや映画のアニメ作品を手掛けている。アニメ業界は東京一極集中の状態であるなか、地方から作品を発信するユニークな存在としても知られる。

若者のリアルな日常を描き、実写のような背景など高い技術はアニメファンに「京アニクオリティー」と評価される。実在する場所を舞台にした作品も多く、ファンがそうした場所を訪ね歩く「聖地巡礼」はブームとなった。

京アニは、2006年に「涼宮ハルヒの憂鬱」、2007年に「らき☆すた」、2009年に「けいおん!」と立て続けにヒット作品を世に送り出している。(京都アニメーションの作品

事件で犠牲になった人たち(年齢順)
  • 大野萌さん(21)京都府木津川市
  • 笠間結花さん(22)京都市伏見区
  • 時盛友樺さん(22)=京都市下京区
  • 兼尾結実さん(22)京都市伏見区
  • 大村勇貴さん(23)都府宇治市
  • 松浦香奈さん(24)京都市伏見区
  • 武地美穂さん(25)京都市左京区
  • 松本康二朗さん(25)京都府宇治市
  • 大當乃里衣さん(26)京都府宇治市
  • 川口聖矢さん(27)京都市伏見区
  • 藤田貴久さん(27)京都市左京区
  • 森崎志保さん(27)京都市伏見区
  • 渡辺紗也加さん(27)奈良県橿原市
  • 佐藤宏太さん(28)京都市左京区
  • 西川麻衣子さん(29)京都府木津川市
  • 明見裕子さん(29)大阪府茨木市
  • 鈴木沙奈さん(30)京都府宇治市
  • 栗木亜美さん(30)京都市東山区
  • 丸子達就さん(31)京都市東山区
  • 石田敦志さん(31)京都府宇治市
  • 岩崎菜美さん(31)京都府宇治市
  • 草野すみれさん(32)京都市伏見区
  • 宮地篤史さん(32)京都府宇治市
  • 横田圭佑さん(34)京都市伏見区
  • 宇田淳一さん(34)京都府宇治市
  • 渡辺美希子さん(35)京都府井手町
  • 西屋太志さん(37)都府宇治市
  • 津田幸恵さん(41)京都市伏見区
  • 佐藤綾さん(43)京都市伏見区
  • 寺脇晶子さん(44)京都府宇治市
  • 武本康弘さん(47)都府宇治市
  • 高橋博行さん(48)京都府宇治市
  • 石田奈央美さん(49)京都市伏見区
  • 村山ちとせさん(49)京都市伏見区
  • 木上益治さん(61)京都市伏見区

死因は焼死26人、一酸化炭素中毒死4人、窒息死2人、全身やけど2人。1人は死因がわからなかった。

裁判の行方 ー死刑か?無罪か?ー

法廷の青葉真司被告/京都アニメーション放火殺人事件

2023年9月5日、「京都アニメーション放火殺人事件」の裁判員裁判の初公判が開かれた。京都地裁には35の傍聴席を求めて約500人が集まり、事件への関心の高さをうかがわせた。裁判員裁判は全32回開かれ、結審は12月13日、判決は2024年1月25日の予定である。

開廷直前の午前10時33分、上下青色のジャージを着た青葉真司被告(45)が、刑務官に車椅子を押されて入廷した。青葉被告は殺人や放火など5つの起訴内容について、「私がしたことに間違いありません」と認め、「事件当時はこうするしかないと思ったが、こんなにたくさんの人が亡くなるとは思わなかった。現在はやりすぎたと思っている」と、弱々しく聞き取りにくい声で話した。

弁護側は「犯行は妄想にとらわれたもので、心神喪失で無罪、または心神耗弱で減刑されるべきだ」と主張。無罪でないとしても、「多くの犠牲が出た原因として、建物の構造に問題があった」との主張を展開した。

そして、弁護側は「青葉被告にとってこの事件は、人生をもてあそぶ『闇の人物』への反撃だった」と説明した。青葉被告は34歳の時にコンビニ強盗事件を起こしたが、このときの刑務所生活において「貸し出しの本やテレビCMなどを通じて、『闇の人物』からさまざまなメッセージを送られるようになった」という妄想に囚われたと述べた。

「京アニ大賞」の落選についても、「闇の人物と京アニが一体となって、嫌がらせをしている」と捉え、「闇の人物と京アニからは逃れられない」と思い込むようになった。やがて、両者を「消滅させたい」と考えるようになり、犯行に及んだと訴えた。

検察側は、妄想があったことは事実としたうえで、「責任能力は本人のパーソナリティーが現れたもので、完全責任能力がある」と指摘した。

6日の第2回公判では証拠調べが行われ、検察側は放火した直後の青葉被告と警察官とのやり取りを記録した音声を流した。現場に駆けつけた警官が「なんでやった」と聞くと、青葉は「(小説を)パクられた」と返答。さらに「お前らが知ってんだろ」「お前らがパクりまくったからだよ、小説」などと激しい口調でまくし立て、その後は黙り込んでいた。

第3回公判から被告人質問

第3回公判

2023年9月7日の第3回公判の被告人質問で、青葉被告は仕事や人間関係に行き詰まり「全部が嫌になった」などと供述するなど、孤立を深めた青年期の生活状況を語った。また、2018年に青葉被告宅を訪れた訪問看護師の供述調書が読み上げられ、訪問を受けた青葉被告が看護師の胸ぐらをつかみ「しつこいんだよ」「いいかげんつきまとうのをやめろ、殺すぞ」と包丁をふりかぶってすごんだことも明かされた。

第4回公判

第4回公判で、青葉被告は生活保護を受給していた30代前半に、京アニのアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」を見て小説を書き始め、「(当時は)24時間365日小説のことを考えていた」と述べた。しかし、自身の犯罪歴をインターネット掲示板で暴露され、恋愛感情を抱いていた京アニ関係者にも知られたと思い込み、出版の道が閉ざされたと考えるようになった。

「はい上がろうとすると、必ず横から足を引っ張られる。刑務所に行くしかない」と自暴自棄になった青葉被告は、コンビニ強盗をして逮捕された。弁護側が法廷で京アニ作品の映像を流すと、青葉被告は特定のセリフや情景について「初めて見たときはパクられたのかな、と(思った)」と述べた。

第5回公判:別の無差別殺傷計画

13日の第5回公判では、青葉被告が2019年6月(事件1カ月前)に、さいたま市の大宮駅前で無差別殺傷事件を計画したことを話した。「大きなことをやらないと、(京アニ側が)パクることをやめない」との動機だったが、「人通りが少なく、通行人を刺しても大きな事件にならない」と考え、断念したという。

第6回公判

14日の第6回公判では、青葉被告が「放火は好ましいことではない」と迷ったが、これまでの人生を振り返り「どうしても京アニを許せない」と犯行に及んだと述べた。続けて、放火した際の状況を詳細に述べ、2001年に5人が死亡した消費者金融「武富士」の放火殺人事件を模倣したと説明した。

第7回公判

19日の第7回公判で、青葉被告は10年かけて書いた渾身の小説がコンクールで落選したことをきっかけに、小説と離れようと思ったことを明かした。当時の心境について青葉被告は「失恋に似たような感情で、離れることは難儀だった」と振り返り、アイデアを書き溜めたノートを燃やしたことで「真面目に生きていくための繋がりがなくなり、事件を起こす方向に向かった」と説明。また、事件については「火をつけたのは行き過ぎたと思っている。いくらなんでも小説ひとつでそこまでしないといけないのかと思う」と述べた。

第8回公判:青葉被告が逆ギレ

20日の第8回公判では、犠牲になった作画監督・寺脇(池田)晶子さん(当時44)の夫(50)が遺族として被告人質問を行った。夫の「放火殺人の対象に家族や子どもがいると知っていたか」との問いに対し、青葉被告は「申し訳ございません。そこまで考えてなかった」と、法廷で初めて謝罪の言葉を口にした。また、「妻はターゲットだったのか」との質問に対しては「京アニ全体を狙おうとした」と述べた。

被害者の代理人弁護士が「放火で人が死ぬとわかっていて、被害者のことは考えなかったのか」と尋ねると、青葉被告は少しムッとした声で「逆に聞くが、京アニが(自身の)作品をパクったときには何か考えたのか」と反論した。
裁判官が「あなたが質問する場ではありません」と注意したが、青葉被告は「パクりや『レイプ魔』と(被告自身が)言われたことに京アニは良心の呵責(かしゃく)はなく何も感じず、被害者としての立場だけ述べてどう思うのか」などとまくしたてた。

第9回公判

25日の第9回公判で、青葉被告は「自作の小説データをパソコンからスマートフォンに移した際に、京アニにアイデアを盗まれた」と述べ、「そこから抜くのは不可能でない」と主張した。

また、この日は初めて裁判員による被告人質問も行われた。青葉被告は、「京アニへの正当な抗議などを考えなかったのか?」との問いには「はなから考えなかった」と答え、「建物への放火だけで済まなかったか?」との質問には「それでは(盗作は)やまない。最終手段を取らなければならなかった」と考えて放火殺人を実行したと述べた。青葉被告は事件当時の気持ちを尋ねられ、「ある意味、やけくそという気持ちだった」と述べた。また、放火以外には京アニの監督個人を襲うことも考えたと明かした。

第10回公判からは証人尋問

第10回公判

2023年9月27日の10回公判からは、目撃者らの証人尋問が始まった。この日は、第1スタジオ1階で放火を目撃した男女2人の社員が証人として出廷した。女性社員は、当時12人がいた1階フロアに「ドンドンドンと足音がして視線を上げると、知らない男が立っていた」と述べた。男はバケツのようなもので液体をまき、女性社員も頭などにふりかかった。足音がしてから炎が上がるまで「10〜20秒ほど」だったという。

女性社員はトイレに逃げ込み、建物の外にいた人に救助されたが、男の表情について記憶が定かでないとしつつも、「無表情に近かった」と話した。男性社員は、放火の瞬間「室内が真っ白になるくらい光った。ドスンという音とともにガソリンのにおいと熱風が来た」と振り返った。男性社員は階段で2階に駆け上がり、窓から飛び降りて脱出。外からはスタジオ内が炎と煙におおわれているのが見え、「壊滅的な状況だ」と感じたという。

第11回公判:消防局員が出廷

10月2日の第11回公判には京都市消防局員が出廷し、現場の構造や防火対策を説明した。消防局員は、「第1スタジオには消火器や非常警報設備が正しく設置され、消防法や建築基準法上の不備はなかった」と証言し、京アニによる半年に一度の点検も行われていたとした。

弁護側は ”スタジオの構造が被害拡大に影響を与えた可能性” を訴えているが、消防局員は3階まで吹き抜けの ”らせん階段” について「縦方向に行く煙や炎は速い。影響はなかったとは言えないと思う」と述べた。そのうえで、「ガソリンは火が回るのが早く、消火器で対応できる火事ではない。仮にスプリンクラーが設置されていたとしても余計に炎や火花が飛び散っていったと思う」などとして、ガソリンによる放火を想定した対策などはないと指摘した。

第12回公判:弁護側が被告人質問

10月11日の第12回公判では、弁護側が被告人質問をした。青葉被告は、京アニ社長が証人尋問で「アイデアを盗む会社ではない」と否定していたことに対し、「(社長は)立場があり、ああ言うしかないので、どうなんですかね」と述べた。

被害の全容を知った時期については「逮捕状を読み上げられた時、亡くなった人の名簿が読み上げられて人数を知った」と説明。「まさかここまで大きくなるとは思わなかった。亡くなったとしても7、8人という認識だった」と述べた。裁判官から「『それ以上の人が亡くなればいい』という気持ちはあったか」と聞かれると、「それはあったと思う。京アニがなくなればいい、それなりの死傷者が出てもいいと思っていた」とも答えた。

3階建ての第1スタジオが全焼したことは、警察から写真を見せられて初めて知ったという。炎と煙が広がる要因となった3階まで続くらせん階段については「認識していなかった」と述べ、「火は1階だけに燃え広がったと思っていた」と話した。

刑事責任能力の審理

第13回公判:起訴前に精神鑑定を行った医師

10月23日の13回公判からは、最大の争点である刑事責任能力の審理が始まった。起訴前に精神鑑定を行った大阪赤十字病院精神神経科の和田央医師が出廷し、「青葉被告には当時妄想があったが、犯行に与えた影響は限定的だった」と述べた。

和田医師は2020年6月~12月、検察の捜査記録を元に青葉被告に計25回話を聞き、家族らの聞き取りも行っ結果、「妄想性パーソナリティー障害」と診断。幼少期の虐待などの経験によって、『極端に他人のせいにする傾向』『自分は特別だという誇大な自尊心』『攻撃的態度』といった青葉被告の性格が形成されたと指摘した。

第14回公判:起訴後に精神鑑定を行った医師

10月26日の14回公判では、起訴後に精神鑑定を行った東京医科歯科大大学院の岡田幸之教授が出廷した。岡田教授は、弁護側の請求を受けた地裁の依頼で精神鑑定を実施。2021年9月~2022年2月、青葉被告に計36時間にわたり面接したほか、母や兄にも話を聞いたと説明した。

青葉被告の幼少期について「落ち着きがなく、忘れ物が多かった」と指摘。2006年8月、窃盗と暴行事件で逮捕されたことが「本人にとって人生の汚点として、その後の妄想に関わっていった」としたうえで、「客観的には妄想でも、本人にとっては体験として区別されなかった」と述べた。

第15回公判:2人の医師が出廷

10月30日に15回公判が行われ、青葉被告の精神鑑定をした医師2人(和田央医師と岡田幸之教授)が同時に出廷した。2人の意見は『青葉被告に妄想があった』という点では一致しているが、妄想が犯行に与えた影響などをめぐって見解がわかれた。

  • 和田央医師(起訴前担当):「妄想性パーソナリティー障害で、犯行に与えた影響は限定的
  • 岡田幸之教授(起訴後担当):「重度の妄想性障害で、妄想が犯行動機を形成し、犯行の背景に影響を与えた

第16回公判:中間論告

11月6日の16回公判では中間論告・弁論が行われ、これで責任能力までの審理が終了となった。

検察側は、最大の争点となっている刑事責任能力に関する中間論告で「完全責任能力があった」と改めて主張。「犯行は被告のパーソナリティー(思考や行動の傾向)によるもので、責任能力が著しく減退していたとは言えない」と述べ、妄想の影響を否定した。

一方、弁護側は「妄想世界での体験や怒りによって善悪の区別や行動を制御する能力を失っていた」とし、完全責任能力を問えるとはいえないと主張した。

量刑をめぐる審理

第17回公判:冒頭陳述

2023年11月27日の17回公判からは、量刑をめぐる審理が始まった。

冒頭陳述で検察側は「筋違いの恨みによる復讐として及んだ類例なき大量放火殺人事件」と指摘。”平成以降最悪の犠牲者数” の事件であることを考慮すべきだとし、「被害者、遺族が負った恐怖や苦しみ、精神的苦痛について着目してほしい」と訴えた。またガソリンを使用した犯行の残虐性についても言及した。

一方、弁護側は死刑制度をめぐる過去の判例を挙げながら「人を殺すことは悪いことなのに、なぜ死刑が正当化されているのか」「本当に『目には目を』なのか考えて審理してほしい」と求めた。

第18回~21回公判:遺族の意見陳述

18回公判(11月29日)、19回公判(11月30日)、20回公判(12月4日)は、検察側による被害感情の立証が行われた。

11月29日は犠牲になった社員の遺族が意見陳述を行い、「自分の命と引き換えに娘が救われてほしかった。(青葉被告は)命をもって罪を償ってほしい」と訴えた。また、検察官が別の遺族の書面も読み上げ、「娘の死を受け入れられずにいる。(被告は)周りの人の人生にも影響を与えたことを忘れないでほしい」と訴えた。

11月30日には、笠間結花さん(当時22)の母親が意見陳述を行った。母親は、青葉被告が成育環境に恵まれなかったことを公判を通して知ったものの、「憎しみがこみ上げるこの感情は生きている限り続く。深刻に受け止めていると感じられず、怒りを感じている」と述べた。そして、青葉被告が主張する京アニによる盗用は「事実無根で、娘に罪は全くない」とし、裁判員らに対して「被害者が前を向けるような判決を願っている」と訴えた。

12月4日に意見陳述した遺族は、事件前日まで帰省していた娘を見送ったことを後悔しているとし、「前日まで枕を並べていたあの子がいない現実を受け入れられない」と述べた。娘は京アニの入社試験に一度失敗したあと、専門学校で学んで入社したという。青葉被告に対し、「社員一人ひとりが挫折を克服してきたことを知らずに、京アニの輝かしい部分しか見なかった」と批判した。

12月6日の21回公判では、青葉被告は遺族から犠牲者に対する思いを問われ、「申し訳ないと思います」と述べた。公判中に青葉被告が謝罪するのは初めてだった。

第22回公判:死刑を求刑

12月7日の22回公判で、検察側は「被害者数は日本の刑事裁判史上、突出して多い。類例なき放火殺人事件だ」と述べ、死刑を求刑した。

検察側は論告で、「青葉被告の妄想が動機形成に影響したが、限定的だ。極刑回避の事情にはならない」と強調。京アニへの筋違いの恨みが動機の本質で「理不尽そのもので、身勝手極まりない」と非難した。また、強固な殺意に基づく計画的な犯行だったと指摘。全く落ち度のない被害者を「一瞬にして阿鼻叫喚の渦に巻き込んだ。非道極まりない」と指弾した。

弁護側は「妄想が大きく影響して犯行に及んだ。(事件当時は)心神喪失だった」と述べ、無罪にすべきだと主張した。

異例の22回の長期にわたる公判は、この日をもって結審した。

青葉被告は最終意見陳述で、「この場で付け加えて話すことはございません」と述べた。

第一審死刑判決

2024年1月25日の第一審判決で、京都地裁は青葉被告に求刑通り死刑を言い渡した

裁判長は責任能力について「事件前、現場周辺で怪しまれないように行動していた点を踏まえ、被告には放火が犯罪と認識し、善悪を区別することができた」と指摘。直前に犯行をためらっていたことからも「思いとどまる能力が著しく低下していなかった」として、完全責任能力があったと結論づけた。

弁護側が主張する「妄想性障害」については認めたものの、「被告には誇大な自尊心があり、うまくいかないことがあると攻撃的になる」と指摘し、ガソリンによる放火という犯行手段については「本人の考え方や知識に基づくもので、妄想の影響はほとんど認められない」と述べた。

そして、「強固な殺意に基づく計画的で残虐な犯行で、極刑をもって臨むほかない」と述べた。

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