「山梨キャンプ場女児失踪事件」の概要
2019年9月21日、3連休を利用してキャンプに来ていた小倉美咲さん(当時7歳)が行方不明になった。
美咲さんは3時のおやつのあと、他の子供たちに5分遅れてひとりで150m先の沢に向かったが、その先の足取りがわかっていない。その後、16日間にわたり大規模捜索が行われるも、発見には至らなかった。
手がかりひとつないまま2年半が過ぎた2022年4月26日、捜索ボランティアの男性が人の頭蓋骨の一部骨を発見。その後、両足の靴と片方の靴下、5月4日には新たに服と肩甲骨の一部が見つかっている。(靴は美咲さんが履いていたものと色・メーカーが同じ、服は当時着ていたのと同じ「黒のハイネックタイプ」だった)
そして5月14日夜、山梨県警は「肩甲骨のDNAが、美咲さんのものと一致した」と発表、美咲さんは行方不明になって間もないうちに死亡したと判断した。
事件データ
失踪人 | 小倉美咲さん(当時7歳)小学1年生:死亡 |
容疑者 | 不明 |
失踪日 | 2019年9月21日 |
失踪場所 | 山梨県道志村「椿荘オートキャンプ場」 |
失踪状況 | ひとりで近くの沢に行った約10分間で行方不明に |
新たな展開 | 2022年4月26日、600m離れた枯れた沢で人骨発見 その後、上流から靴や靴下も発見 |
「山梨キャンプ場女児失踪事件」の経緯
2019年9月21日、山梨県道志村の「椿荘オートキャンプ場」で、小倉美咲さん(当時7歳)が行方不明になった。
9月21日午前7時頃、母親のとも子さん・美咲さん・姉の3人は、千葉県成田市の自宅を出発、椿壮オートキャンプ場に向かった。父親はこの日は仕事があり、翌日に遅れて合流する予定になっていた。
キャンプのメンバーは「子育てサークル」で知り合った7家族・27人からなるグループ。10年前、長女が生まれた時から参加しているサークルで、その中でも特に仲のよい家族が集まって、年に数回キャンプをしていた。
今回のキャンプもそんな気心が知れたメンバーで、3連休を利用して2泊3日(9月21日~23日)の予定だった。
道志村は、山梨県最東端に位置する村。そして「椿荘オートキャンプ場」は、相模湖と山中湖を結ぶ道志みち(413号線)から少し外れた場所にある。
この辺りは人気のキャンプスポットで、約30ものキャンプ場が点在している。「椿壮オートキャンプ場」はその中でも ”キャンプ場の聖地” として知られ、人気が高かった。
一行は午後12時15分頃にキャンプ場に到着。まずはみんなで昼食をとった。
昼食後の午後1時頃、美咲さんを含めた子供たちは、広場裏の森で遊んでいたが、午後3時過ぎ、おやつを食べるために広場に戻ってきた。
おやつはチョコバナナ。じゃんけんで勝った人から好きな形のチョコバナナを選んで食べる、というゲーム方式だった。美咲さんはなかなかじゃんけんに勝てず、食べ始めるのが他の子供よりも遅くなってしまった。
午後3時35分頃、おやつを食べ終えた子供たち9人は、約150m離れた沢に遊びに行った。この中には美咲さんの姉も含まれている。美咲さんは5分ほど遅れてひとりで後を追った。
この時、T字路を左へ曲がっていく美咲さんを母親が見送っている。
美咲さんだけいない
約10分後、メンバーの男性2人が子供たちが遊んでいる沢に向かい、大きな声で戻ってくるよう呼びかけた。子供たちは午後4時頃に広場に戻ってきたが、その中に美咲さんの姿はなかった。
みんなで周辺を探すも美咲さんはみつからない。そのため、午後5時頃に警察に連絡した。
このキャンプ場はきちんと整備されていて、見通しが良かった。沢も150mと近く、「行方不明になるなんて考えられない」と誰もが思う環境だった。
しかも、この日は3連休でにぎわっていて人目も多かった。メンバーの大人たちは、ほかの大勢の客に聞いて回ったが、美咲さんを見かけた人はいなかった。
警察が到着した時にはもう暗かったが、それでも捜索は始められた。当初、沢で溺れた可能性も考慮していたが、当時の沢の水量はとても少なく、それは考えられなかった。
子どもが行けそうな場所にはどこにもいなかったので、警察犬を投入。美咲さんの着ていた上着を嗅がせて捜索するも、警察犬は反応を示さなかった。その後、地元の消防署員も加わって午後10時まで捜索したが、発見には至らなかった。
子供たちが寝たあとも、大人たちは引き続き付近の捜索を続けた。そして日付が変わった午前1時頃、美咲さんの父親が仕事先から現地に到着。
母親のとも子さんは、「同じ感覚を持つことで、何か手がかりをつかめるかもしれない」と考え、美咲さんと同じ服装(シャツ1枚)で夜を明かしたという。
16日目、捜査が打ち切られる
午後12時15分頃 | キャンプ場に到着 |
午後1時~3時頃 | 子供たちは裏手の森で遊ぶ |
午後3時~3時35分頃 | おやつタイム 食べ終えた子供9人が沢へ |
午後3時40分頃 | 美咲さんが1人で後を追う |
午後3時50分頃 | 大人が沢に呼びに行く |
午後4時頃 | 子供9人が沢から戻る 美咲さんだけいない |
午後4時~午後5時頃 | みんなで付近を捜索するも発見できず |
午後5時頃 | 警察に連絡 |
~午後10時頃 | 警察・消防が捜索するも発見できず |
9月21日~10月6日 | 大規模捜索実施 |
10月6日 | 大規模捜索を打ち切り |
翌9月22日は早朝から、山梨県警や地元の消防団員など約80人体制で、半径5km範囲の捜索が開始された。美咲さんがひとりで沢へ向かってから、大人が呼びに行くまでの時間は約10分。そんな短い間に7歳の少女が遠くまで行けるはずがないのだが、美咲さんはどこにもいなかった。
この日は夕方から雨が降り始め、気温は15度まで下がってしまった。体温低下は命にかかわるため一刻も早い救出が望まれたが、やはり発見することはできなかった。
その後も警察と消防団は、連日70人体制で捜索にあたっている。キャンプ場近隣の住民への聞き込みや、人気のない廃屋・車両も探したものの、有力な情報は得られなかった。
5日目からは陸上自衛隊も捜索に加わり、ヘリコプターやドローンで空からの捜索も行われている。最終的に東西15km・南北8kmにわたって述べ約1700人で捜索するも、手がかりさえ見つからなかった。
そして16日目の10月6日、山梨県警は大規模捜索の打ち切りを発表。美咲さんの両親はその後も残り、ボランティアの人たちと捜索を続けるも、台風が接近してきたため千葉県の自宅に帰宅している。
両親が家に帰るのは20日ぶりだったという。
考えられる原因は3つ
結局、大規模捜索をしても美咲さんはみつからないばかりか、手がかりさえ発見できなかった。
今回、失踪の原因として考えられるのは次の3つである。
- 美咲さんが道に迷った
- 野生動物に襲われた
- 誰かに連れ去られた
「道に迷った」説
誰でも最初に思いつくのは「美咲さんが道に迷ったのでは?」ということである。しかし経過の説明でも述べた通り、広場から沢までは150m、それも見通しがよかった。
仮に迷って山道に入ったとしても、7歳女児が行ける範囲は限られている。そして沢には溺れるほどの水量もなかった。
道に迷ったのなら、延べ1700人の大規模捜索で発見されないはずはないのだ。
「野生動物に襲われた」説
熊などの野生動物に連れ去られた可能性を指摘する声もあったが、警察は否定的な見方をしている。
なぜなら、動物が原因なら何らかの痕跡がみつかるはずだというのだ。例えば ”衣類や靴”、”所持品”、”血痕や体の一部” などである。
しかし、大規模捜索でそういったものは一切発見されていない。そのため、この説については否定的な意見が多い。
「誰かに連れ去られた」説
そうなると、残るは「誰かに連れ去られた」可能性。このキャンプ場には国道につながる道が一本通っていて、誰でも通行することができる。キャンプ客の車も多く、怪しまれることはない。
しかも、キャンプ場周辺に防犯カメラはなかった。国道には「Nシステム」があるが、それを避けてこのキャンプ場に来ることもできるのだ。(Nシステム:自動車ナンバー自動読取装置)
もし誘拐なら、犯人にとって好都合な環境である。
子供とみられる人骨発見
大規模捜索が打ち切られてからも、ボランティアなどにより2年半で延べ5200人以上で捜索は続けられてきた。
そんな状況の中、2022年4月26日に「椿荘オートキャンプ場」から約600m離れた山の中を歩いていた捜索ボランティアの男性(40代)が、人のものとみられる頭部の骨の一部を発見。骨は掌ぐらいのサイズで、その大きさから子供のものとみられた。発見されたのは、山道脇の人目につきやすい場所だったという。
山梨県警は26日朝、キャンプ場から林道を1~2km東に進んだ付近を約50人態勢で残りの部位や遺留品などの捜索を開始した。
美咲さんはキャンプ場近くの沢に向かったあとに行方不明になったとされるが、今回の捜索はその反対側にある山林を中心に行われた。
その山林に続く林道は、車1台が通れるほどの幅。カーブやアップダウンが続き、未舗装の部分が多い。南側の山から北側の道志川に向かってところどころに沢もあった。
骨の一部は、枯れた沢の付近で見つかったという。
さらに靴と靴下を発見
骨の発見から2日後(4月28日)、山梨県警は道志村の山中の捜索で、美咲さんが履いていた靴と色などが類似している運動靴を発見した。靴は右足側だけで、その後の調べでは当日履いていたメーカーと一致しているという。
発見場所は骨がみつかったのと同じ沢で、さらに上流だった。
翌29日には同じ種類の左足側の靴、靴下(片方)も見つかった。これらの靴や靴下は、沢の半径数メートルの範囲内で発見されている。
警察はこれらのDNA型鑑定を進めた。
黒のハイネックシャツを発見
5月4日の捜索で、新たに服と肩甲骨の一部が見つかった。発見された場所は、靴が見つかった付近の土の中である。
服は美咲さんが行方不明になっていた時に着ていたものと同じ「黒のハイネックタイプ」の長袖シャツ。サイズなどは判明していない。
母親のとも子さんは「警察から先ほど電話で新たに美咲が着ていたような服と骨のようなものが出てきたと連絡があり、正直ことばになりません。電話のあとしばらく涙が止まりませんでしたが、私は絶対に諦めません」とコメントしている。
関係者「人為的な可能性は低い」(2022年5月6日)
腐葉土は数年かけて堆積した状態だったといい、服や肩甲骨はその中に長い間残留していたとみられている。そのため、人為的に埋められた可能性は低いという。
発見場所の特徴
「椿荘オートキャンプ場」から約600m離れた発見場所は、美咲さんがひとりで歩いて行ったとは考えにくい場所である。
なぜなら直線距離600mといっても間には山があり、遠回りして整備された道を歩いたとしても現場にはたどり着けない。発見場所は獣道なうえにかなりの急斜面なのだ。詳しく知る地元の猟師によると、「地元民でも行かない」場所なのだという。
そして、そもそも美咲さんが向かった沢の方角(西)とは、真逆の東側なのだ。
専門家の意見
山岳捜索の専門家・三苫育さん「枯れた沢で発見されたということなので、最初からこの場所にあったわけではないと思う。靴がみつかった上流あたりから、雨や雪の影響で移動してきた可能性が高い」
元大阪府警刑事・中島正純さん「かなり不自然な見つかり方。別の場所にあった骨を、人か動物が運んできたのでは?」
DNA型鑑定の専門家によると、山では微生物の影響でDNAが破壊される可能性が高いという。そのため、何度も鑑定をくり返して精度を上げるのだが、場合によっては「DNAが検出されない」こともあるとのことである。
ミトコンドリアDNA鑑定の結果
山梨県警は頭の骨をDNA型鑑定で身元確認を進めた結果、5月2日に「個人を特定するだけのDNAが、骨から検出されなかった」ことを明らかにした。
その原因として、元埼玉県警科捜研の雨宮正欣さんは次のように説明する。
- 発見された骨が小さすぎた
- 環境や時間経過のせいで、必要な量の細胞がなかった
そのため、県警は時間が経っても鑑定が可能なミトコンドリアDNAの鑑定を実施。そして5月12日、鑑定結果から「とも子さんと母系親族関係があることに矛盾がない」と発表した。骨が美咲さんのものであると断定されたわけではないが、ほぼ間違いないといえる結果だった。
ミトコンドリアDNA鑑定
骨は美咲さんのものだった
5月14日夜、山梨県警は「5月4日にみつかった肩甲骨のDNAが、美咲さんのものと一致した」ことを発表。これにより「美咲さんは死亡した」と判断された。死亡時期については、行方不明になって間もないうちとみられている。
死因や行方不明後の足取りについては明らかになっておらず、県警は事故と事件の両面で捜査を続ける方針である。
発見日(2022年) | 発見されたもの | 鑑定結果 |
---|---|---|
4月26日 | 頭蓋骨(一部) | DNA型検出されず |
4月28日 | 靴(右側) | DNA型検出されず |
4月29日 | 靴(左側) | DNA型検出されず |
靴下(片方) | DNA型検出されず | |
5月4日 | 肩甲骨(一部) | DNA型一致 |
黒のハイネックシャツ | DNA型検出されず | |
5月11日 | 腕と足の骨(一部) | DNA型一致 |
美咲さん母親を中傷で懲役1年6月
美咲さんの母親・小倉とも子さんに対し、インターネット上で「募金詐欺」と投稿したなどとして、千葉地検は2020年11月4日、名誉毀損罪で静岡県熱海市の職業不詳・野上幸雄容疑者(69)を起訴した。
起訴状によると、野上被告は2月13日頃、自身の管理するブログ「怨霊の憑依」に「美咲ちゃん事件募金詐欺」などと記載、10月3日頃には「今までの流れで親が関与し人身売買、臓器売買が真相だろう」と掲載するなどして、とも子さんの名誉を傷つけたとしている。
裁判で、野上被告は無罪を主張していた。
そして2021年12月17日、千葉地裁で野上幸雄被告(70)の判決公判が開かれた。
裁判長は「臆測に基づく文章を掲載し、正当化する余地はない」として、懲役1年6月(執行猶予4年)を言い渡した。
野上被告は「判決に納得いかないよ俺」「冗談じゃないよ」と声を荒らげながら法廷を後にした。
ひどい内容のブログ
野上幸雄は、和田隆二というペンネームでブログ「怨霊の憑依」を運営していた。肩書は「霊媒師」となっている。野上は、美咲ちゃんの行方不明直後からブログを立ち上げ、毎日のように母親であるとも子さんへの憶測や偏見の記事を更新していた。
ブログの主張は「この美咲さん失踪は誘拐殺人事件で、犯人は母親」というひどい内容。「育児疲れから美咲さんを自宅で殺し、悪天候を利用して行方不明を企て、募金詐欺をした殺人事件」だの「臓器販売で海外に連れ去られたと思う」などの完全なる思い込み捏造記事のオンパレード。
さらには取材に訪れた記者に対し「当日、美咲ちゃんはキャンプに来ていなかった」という主張まで展開している。キャンプ場での美咲さんの写真を並べ、「この写真にはホクロがない」、「髪質が違う」など偏見のみの鑑定をしている。
美咲さんは保育園の文集に身長120.5cmと記録されているのだが、野上は「私のほうで測ったら110cmしかない」と会ったこともない美咲さんの身長を、写真のみから決めつける始末。記者によると「話がかみあわず、要領を得ない」印象だったようだ。
野上は甲府検察庁に出向き、告発状を提出していた。内容は「母親が警察に提出した美咲ちゃんの写真は本人とは異なっている。そのため、警察はまったくの別人を捜査してしまい、これは捜査妨害に当たる」というもの。
しかし告発状は受理されず、返戻(へんれい)された。
野上被告に民事訴訟
2022年3月29日、とも子さんは控訴中の野上幸雄被告(71)を相手取り、慰謝料など計550万円の損害賠償を求める民事訴訟を千葉地裁に起こした。
とも子さんは記者会見で「刑事裁判が始まって以降、中傷はだいぶ減ったが、一部の人からの中傷はまだ続いている」と指摘。「度を超えた中傷を行った人物に多額の賠償支払いが命じられる前例を作り、インターネット上の中傷の抑止につなげたい」と提訴理由を説明した。
訴状によると野上被告は、自身が管理するブログに「美咲ちゃん事件募金詐欺」「美咲ちゃんの事件はかなり組織だってやってるそうです」などと掲載していた。