大阪・北区ビル放火殺人事件|孤独と生活苦で自暴自棄に…

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谷本盛雄・大阪北区ビル放火殺人事件 日本の凶悪事件

大阪市北区のビル放火殺人事件

2021年12月17日午前、大阪市北区曽根崎新地1の雑居ビル4階のクリニックで放火による火災が発生した。放火したのは谷本盛雄容疑者(61歳)。この火災で西澤弘太郎院長を含む26人死亡した。遺体に目立った外傷はなく、死因は一酸化炭素中毒とみられている。
谷本は離婚後、孤独を深めたために自殺願望があった。過去には家族を巻き込んで一家心中を企てたこともあり、本事件も無関係の他人を巻き込んだ無理心中だった可能性がある。
谷本は2021年12月30日、大阪市内の病院で死亡が確認された。

事件データ

容疑者谷本盛雄(61歳)
犯行種別放火殺人事件
犯行日2021年12月17日
犯行場所大阪府大阪市北区曽根崎新地1-3-17
堂島北ビル4階
「西梅田こころとからだのクリニック」
被害者26人死亡(男性14人、女性12人)
犯人の現在2021年12月30日病院で死亡
動機自殺の可能性

事件の経緯

大阪北区ビル火災2021年12月17日

2021年12月17日午前10時20分頃、「ビルの4階が燃えている」と消防に通報があった。

ビルは大阪市北区曽根崎新地にある8階建ての商業ビルで、心療内科クリニック「西梅田こころとからだのクリニック」がある4階のフロアなど、25平方メートルを焼損した。火はおよそ30分後にほぼ消し止められたが、クリニックのある4階出入り口付近が激しく燃えていた。

警察は17日午後6時半頃、放火殺人容疑で捜査本部を設置した。その後の捜査で、放火したのは大阪市西淀川区に住む谷本盛雄(61歳)と判明。このクリニックの患者だった。

谷本は、現場まで自転車で乗り付けている。周辺の防犯カメラには、谷本が自転車に乗る様子が写っており、ビル近くで自転車も見つかった。また、ビル火災の30分前、彼の自宅とみられる住宅でも火災が発生していたことがわかっている。

火に向かっていった

大阪北区ビル放火殺人事件

防犯カメラによると、谷本は液体の入った紙袋を持ってクリニックに来院。受付けをした後に紙袋を床に置いて蹴飛ばし、漏れ出したガソリンに向かってしゃがみ込み、手を動かす様子が映っていた。出火はその直後。府警はこの際にライターで火をつけたとみている。

ガソリンは11月下旬、谷本の自宅のある大阪市西淀川区のガソリンスタンドで購入していた。当初、暖房器具に引火したという見方もあったが、暖房器具は出火元には向いておらず、関係が薄いと判明した。

Bitly

谷本は出火後、逃げるようなそぶりはなく、火に向かっていくような動きを見せていた。また、火が出たあと出入り口の前で両手を広げて立ちはだかる様子が、防犯カメラに写っていたという。

火災には28人が巻き込まれ、そのうち西澤弘太郎院長を含む25人死亡を確認。(男性14人、女性11人)遺体に目立った外傷はなく、被害者の死因は全員が一酸化炭素中毒だった。谷本自身も病院に搬送されたが、2021年12月30日、大阪市内の病院で死亡が確認された。(死因は重度の一酸化炭素中毒による蘇生後脳症)

3月7日午前0時半頃、重体になって治療を受けていた大阪府高槻市在住の女性(31歳)の死亡が確認され、それまで25人と発表されていた死亡者数が26人になった。

17日午前、クリニックでは休職した人の職場復帰をサポートする集団治療「リワークプログラム」が予定されていた。多くの患者が集まっていたことで被害が拡大した。

避難経路はなかった

大阪・北区ビル放火殺人事件

ビルは築51年の雑居ビル。8階建てで延べ床面積700㎡の細長い、いわゆる「ペンシル・ビル」である。古いビルのためスプリンクラーはないが、火災報知器・消火器具の設置には問題がなかった。
だが火が発生した場所は、エレベーターと階段が同じ場所にあり、避難経路が塞がれていたものとみられている。

用意周到な計画的犯行

谷本はこの犯行を、用意周到に計画していた。

  • 事件の前日、クリニックの非常口の扉に、逃げ場をなくすため外側から目張りのような粘着テープが貼られていた(クリニック関係者が当日はがしている)
  • 消火栓が建築資材のようなもので塗られ、開きにくい状態にしていた(自宅から「消火栓を塗る」と書かれたメモがみつかっている)
  • 自宅から「京アニ事件」などの記事がみつかった
  • 「消火栓をどうすべきか」「隙間をなんとかしなければ」というメモがみつかった
  • 11月下旬、近所のガソリンスタンドでガソリンを10リットル購入していた

目撃者は「火事の現場から鼻を突くような臭いがした。これまで嗅いだことのない薬品のような臭い」と証言している。

通院していた20代男子学生は「放火と聞いて本当に怖かった。犯人が許せないし、法の裁きを受けてもらいたい」と怒りをあらわにした。西澤弘太郎院長については「優しい先生だったし、人に恨まれるような人ではなかった。」と話した。

犯人・谷本盛雄(61)の生い立ち

大阪・北区ビル放火殺人事件・谷本盛雄
クリニックに向かう谷本盛雄荷台にはガソリン?

谷本盛雄は1960年、大阪市此花区で4人兄弟の次男(第3子)として生まれた。家は板金工場を営んでいた。高校を卒業すると板金工になったが、実家の工場は兄が継いだため、複数の工場を転々とすることになる。

5歳以上歳の離れたによると、「普通の子。お母さん子だった」という。ただ、父親や兄とは気が合わなかった。短気なところがあり、酒を飲んで言葉を荒げることもあった。谷本とは事件まで32年間疎遠だったそうである。

兄弟は、実家の板金工場でともに働いていたが、谷本が18歳の頃に母親が他界。それから性格が少し変わった。小さな揉め事は日常茶飯事で、仕事で兄が注意して “帰れ” と言ったら、そのまま何も言わず帰ったという。谷本はその後、職を転々とするようになった。

結婚後は西淀川区姫島の持ち家に住み、2人の男児をもうけたが、2008年9月頃に離婚。翌2009年に元妻に復縁を迫るも、受けつけてもらえなかった。その頃から孤独を深めていったとされる。

板金工の腕は確かだった

谷本盛雄の自宅
谷本盛雄の自宅

1級建築板金技能士の国家資格を持つ谷本は、2002年頃から7~8年間、大阪市内の板金工場で働いていた。職人としての腕は確かで、この会社の社長(当時78)によると「彼の仕事は、見ただけで彼がやったと分かるくらい群を抜いていた」そうである。

そのため、日給8000円のアルバイトから、数カ月で1万2000円の正社員になったという。社長の妻(当時76)も「自分にも厳しいし、後から入ってきた人にもビシッと厳しく教える。若い子への面倒見もよかった」と話す。

しかし、作業で指摘されるとカッとなることがあったという。ただ、ちゃんと話せばすぐに落ち着いて後に引きずらなかった。

2008年に離婚してからは、急に休むことが増えた。悩みや不満は社長に聞いてもらっていた。やがて2010年頃、連絡もなく会社に来なくなり、社長が電話しても出なかったという。

長男の頭部を刺した前科

谷本には前科があった。
2011年4月25日、長男の頭部を刺した罪で、懲役4年の実刑判決が下っている。長男の命に別条はなかった。

谷本は離婚後、寂しさを募らせて自殺を考えるようになった。ただ死ぬのは怖く、だれかを殺せば死ねると考えた。そして、「長男を殺そう、元妻や次男も道連れにしよう」と考えはじめたという。

2011年4月24日、長男から家族4人で映画に行こうと誘われると、これを一家心中の機会にしよう決意。映画鑑賞後に元妻のマンションを訪れることになった際、谷本は「寿司をもってくる」と自宅に戻り、寿司だけでなく、出刃包丁や刺身包丁、スタンガン、催涙スプレー、ハンマーなどをこっそりと持ち込んだ。

長男と居酒屋に行き、戻ってさらに深酒するうちに夜が明け、そして犯行に及んだ。刃渡り15cmの出刃包丁を右手で逆手に持ち、何度も振り下ろして長男の頭や肩を突き刺した。しかし、抵抗した長男は2週間程度の怪我ですみ、谷本は玄関の外に押し出された。結果、殺人未遂および銃刀法違反で、その年の12月、懲役4年の実刑判決となったのだ。

酒飲み口論、25歳長男の頭刺す、父逮捕 【大阪】2011年4月25日

長男の頭部を包丁で刺したとして、大阪府警西淀川署は25日、殺人未遂容疑で、大阪市淀川区塚本の無職、谷本盛雄容疑者(51)を逮捕した。容疑を認めているという。

逮捕容疑は25日午前6時15分ごろ、大阪市西淀川区大和田のマンション一室で、この部屋に住む無職の長男(25)の頭部などを包丁で刺したとしている。長男は頭や肩を負傷したが、命に別条はない。

同署によると、谷本容疑者は24日夜に長男宅を訪問。食事をした後、室内で飲酒していたところ口論となり、かばんに入れていた包丁で刺したという。

谷本盛雄の遺骨

メダデ教会の西田好子牧師/大阪・北区ビル放火殺人事件
メダデ教会の西田好子牧師

2023年1月21日、谷本盛雄の遺骨について引き取りの申し出があったことがわかった。保管する大阪市立北斎場によると、前科のある人の更生や野宿者らの生活立て直し活動に取り組むメダデ教会(大阪市西成区)の西田好子牧師(72)が申し出たという。斎場には他にも引き取り希望の声があった。

大阪市の規定によると遺骨の引き取り手は原則親族だが、一定期間申し出がなければ、親族以外にも遺骨を引き渡せるとしている。2023年8月末までに親族などの引き取り手が現れなければ、大阪市設南霊園(阿倍野区)で無縁仏として埋葬されることになっていた。

孤独という病 (宝島社新書)

孤独や生活苦で自暴自棄になって自殺願望を持ち、事件を起こしたとみられる谷本。西田牧師は「もし事件前に出会って手を差し伸べていたら、救えたかもしれないという後悔がある。遺骨は教会に安置し、被害者に謝罪するよう毎日声をかけたい」と話している。

動機は生活苦?

犯人が死亡しているため、動機について詳しく知る手立てはなくなってしまった。
しかし事件後の調べで、「無関係の人たちを巻き添えに自殺を図った」とみられていて、2022年3月14日、容疑者死亡のまま書類送検された。

自殺した凶悪犯【自殺未遂も含む】

捜査本部によると、谷本は大阪市内に所有する物件の家賃収入を得ていたが、事件の約3年前の2019年9月で入居者が退居。谷本の銀行口座はその翌月から残高が1万円未満の状態が続き、2021年1月に残高83円を引き出してからは0円となっていた。

イザと言う時のための生活保護マニュアル

2021年春には、生活保護の申請をしていたがこれを断られ、受給は実現しなかった。さらに事件の前、税金の滞納が理由で所有する土地と建物を一時期、差し押さえられていた。

このことから「生活苦が動機」とみるのが一番妥当である。追い詰められたあげくに自暴自棄になった可能性が高い。しかし、なぜクリニックで無関係の25人の命を犠牲にしたのかまでは不明である。

土地と建物を差し押さえられる前に、売却することはできなかったのだろうか?

評判のいい院長だった

クリニックの評判は、患者によると以下の通りである。

  • 院長は優しい先生
  • こちらが納得するまで話せば聞いてくれた
  • どう考えても偉そうな先生ではなかった
  • 患者の多いクリニックで、待ち時間は長い
  • トラブルは聞いたことがない
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