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柴又女子大生放火殺人事件|事件は海外留学2日前に起こった

小林順子さん/柴又女子大生放火殺人事件 日本の凶悪事件

柴又女子大生放火殺人事件

1996年9月9日、「寅さん」映画で有名な葛飾区柴又3丁目の民家で火災が起きた。焼け跡からはこの家に住む上智大学4年の小林順子さん(21歳)の遺体がみつかった。

順子さんは手足を縛られ、首を刺されていた。警察は殺人事件と断定し、捜査を開始。当初、現場の状況から顔見知りの犯行とみられていたが、捜査は難航する。いくつかの不審者情報はあるものの、現在に至るまで容疑者を特定できていない未解決事件である。

事件データ

被害者小林順子さん(21歳):死亡
容疑者不明
事件種別放火殺人事件
発生日1996年9月9日
発生場所東京都葛飾区柴又3丁目
キーワード留学2日前

事件の詳細

柴又女子大生放火殺人事件
事件当日の被害者宅

1996年9月9日午後4時半頃、東京都葛飾区柴又3丁目の民家より火災が発生した。火は約2時間後に消し止められたが、焼け跡から上智大学4年の小林順子さん(当時21歳)の遺体が発見された。

順子さんは両親と姉の4人家族。この日、父親は福島県に出張で不在、姉もこの時間は仕事でいなかった。家には順子さんと母親の2人だったが、その母親も火災直前の午後3時50分頃に、美容院のパートに出かけている。

この日は、かなりの雨が降っていた。順子さんは午後3時50分頃、出かける母親に「こんなに雨が降っていても自転車ででかけるの?」と声をかけた。母親は、こんなたわいもないやりとりが、最後の会話になるとは考えもしなかった。

母親が家を出たあと、午後4時15分頃に付近を通行した住民によると、火災はまだ起きていなかった。その後の近隣住民の証言から、出火は午後4時35分頃。気付いた燐家の住人がすぐに119番通報した。
順子さん宅は全焼し、鎮火したのが午後6時頃である。

火災の原因は放火だった。それは、順子さんの遺体の状態からもあきらかだった。
順子さんは口と両手を粘着テープで、両足をパンティーストッキングで縛られていた。また、首の右側を数か所刺され、下半身にやけどのあとがあった。着衣の乱れや、乱暴された跡はなかった。

順子さんは父親の布団に横向きに寝かされ、布団には血痕が付いていた。死因は刺されたことによる失血死。気管にすすが付いていなかったことから、殺害後に放火したとみられた。
順子さんの腕には防御層があったが、不思議なことに粘着テープの下にも傷があった。このことから、順子さんは殺害されたあとに両手をテープで縛られたことがわかった。

現場の状況
  • 順子さんは2階の両親の寝室で、父親の布団に横向きに寝かされ、夏用の掛け布団を頭からかぶせられていた。(布団の左右の端は、体の下に挟み込まれていた)
  • 死因は出血多量。(首の右側を集中して6か所刺された)
  • 口に粘着テープが貼られていた。
  • 両腕も粘着テープで縛られていた。手に防御層があり、その傷の上から粘着テープが巻かれていたことから、両手を縛ったのは殺害後。傷の程度から、かなり抵抗したとみられる。
  • 両足はストッキングでからげ結びに結ばれていた。(からげ結び:造園、足場組み立て、和服着付け、舞台衣装、古紙回収、電気工事、土木関係などの業種で用いる。造園業では「かがり結び」とも呼ばれる)
  • 着衣の乱れはなかった。
  • 気管にすすが付いていなかったことから、放火は殺害後。
  • 放火には仏壇のマッチを使用。(火元は1階東側の6畳和室の押入れ)
  • 1階のパソコンにも火がつけられていた。
  • 父親が普段使用しているスリッパが、2階に揃えて残されていた。

殺人事件と断定

警察は殺人事件と断定した。そして現場の状況から、当初は顔見知りの犯行と考えられていた。

その根拠として、以下のような点が挙げられる。

  • 物やお金は何も盗られておらず、乱暴された形跡もない
  • 人目に付く夕方の短時間で犯行であることから、被害者宅の状況を把握していた可能性がある
  • 遺体の顔が見えないように何かをかけるのは、顔見知りの犯行に多い
  • 殺害したうえに放火する場合、被害者に強い恨みを持っていることがある
柴又女子大生放火殺人事件
空き巣が狙うような立地ではない(警視庁作成動画より)

家の玄関は通りに面しており、出入りは通行人から丸見えな状態。空き巣の常習犯なら、この家は狙わない。しかも住人(順子さん)が在宅の状態である。

また、順子さんは2日後にアメリカへの海外留学を控えていた。もし動機が怨恨なら、留学前に片を付けようとした可能性もある。
順子さんの恋人は当時アメリカにいたので、友だちが「彼氏に会えていいね」と言うと、「そんな理由で留学するんじゃない」と返したという。そんな生真面目な性格の順子さんには、人に恨まれるようなトラブルはなかった。順子さんだけではなく、家族にも思い当たる節は何ひとつ思い浮かばなかった。

犯罪精神医学が専門の作田明氏は、専門家の立場からある推測を導き出している。それはストーカー説である。

作田明氏の見解

事件と留学には関係があると考えれば、犯人は順子さんの留学前に事を起こす必要があったと推測できる。順子さんに一方的に愛情や好意を抱いていたが、順子さんも周りもそれには気付いていない。相手に拒絶されることを恐れて、行動を起こさないストーカーは存在する。
順子さんが日本から離れると会えなくなるし、彼氏のいるアメリカから二度と日本に戻ってこないことを恐れた可能性もある。彼女を誰かに取られるよりは自分の手で殺し、自分のものにしようと考えたのでは?

事件当日の不審者情報

”顔見知りの犯行” と考えた警察は、遺族にも「すぐに捕まる」と話していた。だが、実際は有力な手がかりがなく、現在に至るまで未解決のままである。

ただし、不審者情報がないわけではない。
火災発生時刻とほぼ同じ午後4時30分~40分頃、「雨の中を傘も差さず、現場付近から駅の方面へ走って行った20〜30代ほどの男」が目撃されている。また、事件前には「被害者宅を見ていた身長約160cm・やせ形で、黄土色のレインコート・黒ズボン姿の30代後半の男」の情報もあった。

ほかにも近辺で数件の不審者情報があったが、いずれも犯人を特定するものではなかった。

事件当日の不審者情報
  • 午前9時から午後3時までの6時間、金町公園周辺をうろついていた白い手袋の男。
  • 事件の数時間前、京成高砂駅で「柴又3丁目はどこですか?」と道を尋ねていた男。
  • 事件前、被害者宅を見ていた男。30代後半、身長約160センチ、やせ形。黄土色のレインコートと黒ズボン姿
  • 午後1時頃、被害者宅付近で主婦を尾行し、家の前でライターをいじり、体操をしていた40歳前後の男。
  • 午後4時頃、黒傘をさして現場近くに立っていた中年男。これと似た男が事件当日朝、京成高砂駅(柴又駅の隣駅)付近で柴又3丁目への行き方を主婦に尋ねている
  • 午後4時頃、被害者宅の南側で自転車を乗り回していた30代前半ほどの男。
  • 午後4時30分~40分頃、雨の中を傘も差さず、現場付近から駅方面へ走って行った20〜30代の白っぽいシャツの男

また、当日以外にも前日の午前5時頃、被害者宅近くで「ふざけんな、ぶっ殺すぞ!」と叫び、軍歌を歌いながら自転車で走り去った男が目撃されている。

3日前の正午過ぎには、中年男(40歳ぐらい)が近くの何軒かの家に入りこんで追い返されたり、他人の家の門前でライターをいじるなど不審な行動を取っていた。(このライターの男は、当日午後1時頃にも目撃情報あり)

被害者・小林順子さんについて

小林順子さん/柴又女子大生放火殺人事件
被害者の小林順子さん

小林順子さんは江戸川区内の女子高から上智大学・外国語学部に進学して、事件当時は4年生だった。

大学1年の時から地方の中学生に英語を教える「サマー・ティーチング・プログラム(STP)」というサークルに所属。ゼミでは「東南アジアの文化」を専攻していた。

成績は優秀で、ほとんどがA。留学の選考試験も上位の成績をおさめ、第一志望のシアトル大学(アメリカ)への留学が、事件2日後から予定されていた。

家庭教師や地方放送局のアルバイトもしていたが、無駄遣いするようなこともなく、お金を下す時は千円、2千円と必要な分だけ下すような堅実なタイプだった。事件後、通帳には70万~80万円の貯金があり、家族はこの貯金で仏壇を購入したという。

性格は明るく、人に嫌われるようなこともなかった。事件前日には、中学時代の同級生の悩みに朝まで付き合うような優しさも持っていた。
事件の数日前には、友人に「映画の仕事に就きたい」と夢を語っていたという。

10年後、新たな情報を公開

からげ結び(かいずる)
(参考画像)からげ結び

事件から10年経った2006年9月には、両足の縛り方が「からげ結び」という特殊な結び方だったことが公開された。からげ結びは造園・足場組み立て・和服着付け・舞台衣装・古紙回収・電気工事・土木関係などの業種で用いられていて、造園業では「かいずる」、「かがり」とも呼ばれる。

また、現場に残されたマッチ箱の残留物から、家族以外のDNA型が発見されたことも公開されている。これは、布団に付着した血痕のDNA型とも一致していて、犯人のものと思われる

柴又女子大生放火殺人事件・不審者(黄土色のレインコートと黒ズボンの男)
柴又女子大生放火殺人事件・不審者(黄土色のレインコートと黒ズボンの男)

その後も、警視庁は事件解決に向け、広く情報を呼びかけるため、2021年8月、有力な不審者情報をイラストにして公開している。

その不審者とは、事件が通報される約1時間前、通行人に目撃されていた人物。50代~60代の男で、身長は150~160cm瘦せ形であるという。黄色っぽいレインコートに黒ズボン姿で、傘をさしていた。

柴又女子大生放火殺人事件跡地・順子地蔵
事件跡地に祀られた順子地蔵

また、事件現場である被害者宅はもう存在しない。現在、跡地には被害者である順子さんの名前をつけた地蔵が祀られている

警視庁は、事件の解決に役立つよう、当時の現場の3D動画も公開している。

柴又三丁目女子大生殺人 放火事件・不審者目撃状況の3D動画|警視庁

2020年7月には、順順子さんの遺品の一部が遺族に返却された。さらに警視庁は、放火で焼け焦げたネガフィルムを特殊な技術を使って現像し、およそ400枚の写真にして返却した。

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