「山形・東京連続放火殺人事件」の概要
ゲイの浅山克己は、交際していた男性に対する日常的な暴力のせいで、両親の元に逃げられてしまう。2010年10月2日、両親が邪魔だと考えた浅山は、男性の実家に放火して両親を殺害する。その後、別の男性と交際を始めるも、やはり暴力で逃げられた浅山は、相手の母親のマンションに侵入。帰宅した母親を殺害して放火した。
逮捕された浅山は、留置場内で首を吊って自殺を図り意識不明の重体となった。しかし、のちに意識が回復、裁判では死刑が確定となった。
事件データ
犯人 | 浅山克己(逮捕時46歳) 死刑:東京拘置所に収監中 |
共犯 | 浅山小夕里(逮捕時42) 東京事件について懲役18年 |
事件種別 | 連続ストーカー殺人事件 |
発生日 | 山形事件:2010年10月2日 東京事件:2011年11月24日 |
場所 | 山形県、東京都 |
被害者 | 3人死亡(元交際相手2人の親) |
動機 | 元交際相手への執着 |
キーワード | カマヤクザ、ストーカー |
事件の経緯
山形県出身の男性Aは、大学卒業後に名古屋で飲食関係の仕事に就いていた。 2008年10月のある日、Aは名古屋市のスーパー銭湯に出向いた。ゲイであるAはそこでゲイの友人と会い、同性愛者のインターネットサイトの話で盛り上がった。そのスーパー銭湯にはそういう類の人が何人か集まっていた。
その中に浅山克己(当時44歳)もいた。浅山もやはりゲイで、彼もAたちの話に加わった。Aと浅山は惹かれあい、その日のうちに肉体関係を持った。ほどなくして、2人は半同棲するようになった。
しばらくは何事もなく交際していたが、4か月後のクリスマスにちょっとした出来事があった。浅山が突然、Aの頭をリモコンなどで殴ってきたのだ。「こんな何もないクリスマスは初めてだ」そう言ってかなり不機嫌だった。
そんなことが多くなり、Aの気持ちは次第に浅山から離れていった。そして、年が明けたころには別れることを決意。だが浅山は「まわりにも、お前の親にもゲイをバラすぞ」と脅し、逃亡をふせぐために職場まで迎えに来るようになった。Aはなんとか別れたいと考え、ほかの男と肉体関係を持ったりもしたが、浅山は別れてくれなかった。
やがて、浅山の行為はエスカレートしていく。次の日に仕事があっても、朝までひどい言葉で責められることもしばしばだった。仕事に行くことだけは許されたが、Aは寝不足のまま出勤することも多かった。
山形事件
浅山は、Aのことはとことん罵倒するくせに、「自分は完璧で神のような存在だ」というのが口癖だった。脅し、つきまとい、半ば監禁する。長時間責め続け、罵詈雑言を浴びせ、暴力をふるう。浅山は、悪質ストーカーがやるような行為すべてをやっていた。Aはそれに1年半ものあいだ耐えた。
2010年5月、耐えかねた男性Aは山形市の実家に転居する。しかし、浅山は電話やメールを大量に送りつけた。9月には浅山が山形まで押しかけ、Aを無理やり名古屋まで連れ帰った。Aは「母親の介助をしなければならない」と実家に戻ったが、浅山はその後も大量のメールや電話を続けていた。
そんな中、2010年10月2日にAの実家で火災が起こる。焼け跡からは、Aの父親・山家武義さん(71歳)と母親の和子さん(69歳)の遺体が発見された。
浅山は、県警からストーカー規制法に基づく警告を受けていた。にもかかわらず、山形県警は出火原因の特定には至らなかったため、失火の可能性が高いとして処理をした。
だが、実際は浅山の放火だった。さらに、火災後も浅山は山形市を訪れ、Aの自宅のガラスを割るなどした。
東京事件
浅山はゲイでありながら、必要に駆られて ”おこげ” の小夕里(42歳)と結婚していた。2人は共同で犬を飼っており、世話のためにそのほうが都合がいいと考えてのことだった。
小夕里は結婚した理由について「断ったら犬を殺す」と脅され、大切な犬のために承諾したとのちに話している。
男性Bは浅山と交際を始め、2010年春から秋にかけて、名古屋市の浅山宅で夫婦と同居していた。その間、浅山夫婦からの暴力を受け、9月以降に何度も逃げ出したが、そのたびに連れ戻されていた。
Bは11月に再び逃げ出し、東京都内のカプセルホテルなどを転々としたが、夫婦は執拗に行方を捜していた。そして東京都江東区のBの母親・大塚達子さん(76歳)のマンションを何度も訪れ、Bに会わせるように迫っていた。
2011年11月24日、浅山は妻の小夕里と共謀し、Bの母親が住むマンションに侵入する。このマンションは12階建てで、母親の部屋は9階にあった。ベランダから侵入した浅山は、帰宅してきた母親を襲い、身動きできないように体を縛った。それから閉じ込めた大きな容器の中で炭を燃焼させ、一酸化炭素中毒にして殺害。その後、室内に灯油をまいて火をつけ部屋を全焼させた。
浅山夫婦は男性Bの行方を調べるため、区役所で本人を装って住民票の写しを受け取ったり、付きまとったりした。これらの行為により2012年1月5日、有印私文書偽造とストーカー規制法違反容疑で逮捕された。また、2012年1月18日には、Bの母親への殺人・現住建造物等放火などの容疑でも逮捕された。
その後、山形市の男性A両親の殺害についても関与を認めたため、3月7日、殺人と現住建造物等放火の容疑で再逮捕された。
留置場で自殺未遂
2012年3月25日、浅山は留置場で首吊り自殺を図り、意識不明の重体となった。
警視庁によると、浅山は午後9時頃、東京都の原宿警察署内の留置施設の個室で、ひも状に裂いたシーツを首に巻き付け、自殺を図っているのを発見された。 直後に救急車が到着して人工呼吸などをしたが、意識不明の重体となった。 だが、のちに意識が回復し、3月30日に追起訴されている。
犯人・浅山克己の生い立ち
浅山克己の性格は、自己中心的で執念深く、暴力的であることは犯行を見る限り明らかである。生い立ちについては公判中、浅山の姉がこんな証言をしている。
「両親の夫婦仲は、あまりよくありませんでした。父は酔っ払って母に手を上げたりしていました。私は怖くて何もできませんでしたが、弟は5歳くらいの時からいつも母をかばっていました。父に聞いた話では、母に手を上げた時、中学生の弟に羽交い締めにされ『もうかなわない』と暴力を止めたと言っていました。
家計が困難で学歴は中卒。美容師をめざして上京した。私たちの兄は25歳で自殺しました。」
浅山の凶暴性は、過去に起こした事件からもあきらかだ。
万引き美容師、犯行見つかり女性店員に暴行…名古屋(2003年2月)
★盗み見つかり、美容師が女性店員に暴行
愛知県警昭和署は3日、強盗容疑で名古屋市昭和区丸屋町、美容師・浅山克己容疑者(37)を逮捕した。
調べでは、浅山容疑者は3日午後8時ごろ、昭和区円上町のビデオ店で ヘッドホンステレオ(2980円相当)1個を盗み、盗みを見つけた女性店員(19)に対し顔を殴ったり足をけるなど暴行した疑い。浅山容疑者は容疑を認めている。
浅山は一部では「カマヤクザ」と呼ばれていたそうだ。
共犯・妻の小夕里について
小夕里はいわゆる ”おこげ” で、浅山とは友人だった。一緒にスノボに行くなど、仲は良かった。犬好きな2人は、金を出し合って犬を飼っていたこともある。
2002年、浅山の同棲相手が逃走して、犬の世話をする人がいなくなった。この時、共同で犬を飼うのに都合がいいという理由で、浅山は小夕里に結婚を持ちかけた。
小夕里は「断ったら犬を殺す」と脅され、大切な犬のために結婚を承諾した。また小夕里は、がんを患う父親に「花嫁姿を見せて安心させたかった」という事情もあった。
夫婦といってもこのような ”必要に駆られた事情” のためであり、愛情で結び付いているわけではなかった。浅山の性的興味はあくまで同性に向けられ、自宅前で男性といちゃついているのを近所の人に目撃されている。
結婚後は、浅山に暴言や暴力を振るわれることもあったという。彼女は働かない浅山に生活費を渡したり、部屋を与えたりと、金づるのような存在になっていた。ついには、事件にも巻き込まれてしまい、天国の父を悲しませる結果となってしまった。
裁判
2013年5月9日、東京地裁で裁判員裁判の初公判が開かれた。浅山は山形事件について「殺害するつもりはなかった」と殺意を否認、東京事件については起訴内容を認めた。
検察側は、山形市の事件について「確実に殺害できると考えていなくても、死亡させる危険性があると認識していれば、殺意があると認められる」と主張、殺人罪が成立する根拠として、以下の点を挙げた。
- 浅山は夫婦が家にいるかもしれないと思っていた
- 「介助が必要な夫婦が、午後9時には就寝している」ことを認識したうえで放火した
- 浅山は「男性Aを自分の元に連れ戻すには、両親の存在が障害である」と考えていた
一方、弁護側は以下のような主張で殺意を否認、殺人罪には当たらないとした。
- 家の隣にある、夫婦の染め物工場を燃やすつもりで放火した
- 工場が燃えて職場がなくなれば、男性Aが、自分の元に戻ると思った
- 当時、家や工場に明かりがついておらず、車も人の気配もなく留守だと思った
- 夫婦が在宅中で、亡くなることは想定外
- 夫婦への恨みはなく、殺害する動機はない
13日の第3回公判で、浅山の妻・小夕里が証人尋問で、「Aの仕事がなくなれば名古屋に戻ってくる、というのが放火の理由」と述べた。同性愛者の浅山と結婚した理由を問われ「断ったら飼い犬を殺すと脅された。自分の命よりも大事な犬だったので結婚した。恋愛感情はなかった」と話した。
14日の第4回公判で、浅山は「夫婦は不在だと思っていたので、 工場と一緒に家が燃えても構わないと考えた 」と、家が燃える可能性については認めたが、殺意は否定した。21日の公判では、「悪いことをしたので死刑でも構わない」と述べた。
23日、検察側は「殺意は明らか」として死刑を求刑。浅山は「本当に申し訳ありませんでした」と、消え入りそうな声で話した。
第一審判決は死刑
2013年6月11日、東京地裁は浅山被告に死刑を言い渡した。
裁判長は、争点となっていた「山形事件での殺意の有無」について、家の壁にも灯油がまかれている点を指摘。「避難能力の劣る夫婦が死亡する危険性が高いことを認識しながら放火したと推認できる」として、殺意を認定した。
さらに東京事件については「命ごいを無視して殺害しており、残忍極まりない」と非難。その上で、男性Aへの強い執着心から山形事件を起こし、その後、男性Bの母親への逆恨みから重大事件を再び起こした」と指弾した。
そして「全く落ち度のない被害者が3人も殺害され、社会に与えた衝撃も大きい。交際相手を連れ戻したいという願望を実現するために重大な犯行を繰り返しており、犯情は極めて重い」とした。
小夕里は懲役18年
妻の小夕里被告は容疑をすべて認めており、弁護側は「妻は夫の浅山に支配されている関係だった」と主張して減刑を求めていた。
2012年11月13日、妻・小夕里に対して、懲役18年(求刑懲役22年)を言い渡された。弁護側は、控訴せずに判決が確定した。
控訴審・東京高裁
2014年5月2日から始まった控訴審でも、山形事件における殺意の有無が争点となった。
【弁護側】
「浅山は工場がなくなれば男性Aが自分の元に帰ってくると考えた。夫婦は不在と思い家に火をつけた」と主張。
【検察側】
弁護側は一審での主張を蒸し返しているに過ぎないとして、控訴棄却を訴えた。
【裁判長】
弁護側が、浅山がうつ病だったとして精神鑑定を申請したことについて「理由がない」として却下。浅山が男性Aの両親の生活状況を把握していた点を指摘し、殺意について「確定的とは言えず、未必の殺意」と認定した。
さらに、東京でも同様の事件を起こしていることから、「用意周到に計画して完全犯罪をもくろむなど、犯行の悪質さや重大性が際立っている。死刑はやむを得ない」と述べた。
上告審・最高裁
2016年4月15日の上告審。
弁護側は死刑回避を主張
- 山形事件について「犯行当時、服用した薬の影響で強い緊張感や焦燥感などを持っており、男性A両親の就寝時刻を冷静に考えていたとするのは不自然」
- 就寝時刻を知っていた件についても、根拠が不確か
- 殺人について計画性はなく、悪質性は低い。精神状態が通常ではなく、確定的な殺意もなかった。「未必の殺意」を認定した二審判決は誤り
検察側は上告棄却を求めた
- 男性Aの証言は自然で一貫しており、メールなどの客観的事実とも符合する
- 一審、二審の死刑判決は正当で、上告する理由がない
判決で裁判長は、「家の中に元交際相手の両親がいるかもしれず、放火すれば死亡するかもしれないことを認識しながら、あえて建物付近に灯油をまいて放火し、焼死させた」と未必の殺意を認定、弁護側の主張を退けた。そして「わずか1年余りの間に、交際相手を連れ戻したいという思いから放火や殺人を重ねたことは、身勝手極まりない人命軽視の態度だ」と指摘。「3人の生命を奪った結果は極めて重大」と述べた。これにより、浅山の死刑が確定した。
ストーカー事件と聞くと男女間のトラブルを思い出しますが、人を好きになることに性別は関係ないようです。本事件は同性間で起きたストーカー殺人事件でした。
ストーカー殺人事件では、相手の身内が標的にされることも少なくありません。長崎ストーカー殺人事件 や 群馬一家3人殺害事件 でも、犯人は凶悪ストーカーでしたが、好意を寄せる相手本人ではなく、その家族が犠牲になりました。
このような場合、ストーカーは「2人の仲を家族が邪魔している」と思い込んでいるのです。今回のケースとよく似ています。
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