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茨城一家殺傷事件|被害者家族と接点なく、動機も不明…

岡庭由征/茨城一家殺傷事件 日本の凶悪事件

「茨城一家殺傷事件」の概要

2019年9月23日、茨城県境町の民家で就寝中の家族が襲われる事件が発生。両親が殺害され、子供2人も重軽傷を負った。現場は周囲を木々に囲まれ、奥に家があるとは思わない立地だったことから、警察は怨恨の線で捜査を開始。だが、翌年逮捕されたのは、家族の誰とも面識のない埼玉県在住の男だった。

男の名は岡庭由征(当時24歳)。彼は少年時代から動物を虐殺し、高校の時には2人の女子生徒を刃物で切り付ける通り魔事件を起こしていた。岡庭は一家殺傷を認めておらず、また、確たる物証もみつかっていない。精神鑑定では「刑事責任が問える」との判断で起訴はされたが、今後の裁判が注目される。

事件データ

犯人岡庭由征(当時24歳)
読み:おかにわ よしゆき
犯行種別殺人事件
犯行日2019年9月23日
場所茨城県境町
被害者数2人死亡
判決裁判前
動機不明
キーワード吾義土、改名

事件の経緯

茨城一家殺傷事件現場
事件現場となった小林さん宅

2019年9月23日、茨城県境町の雑木林に埋もれるように建つ一軒家で、この家に住む一家4人が殺傷される事件が発生した。殺害されたのは小林光則さん(当時48)、妻の美和さん(当時50)で、刃物でめった刺しにされていた。また、中学1年生の長男(当時13)は腕と両足を切られて重傷、小学6年生の次女(当時11)も催涙スプレーをかけられ、両手に軽傷を負っていた。

4人は2階で就寝中に襲われたとみられ、1階の自室で寝ていた長女(当時21)は無事だった。犯人は侵入後2階に上がり、まず夫婦の寝室で凶行におよんだあと、子供部屋の長男と次女に危害を加えていた。

犯行後の午前0時40分頃、まだ息のあった美和さんが「助けて」と110番通報したことで事件は発覚した。通報の15分後、現場に駆けつけた境警察署員が、首や胸などを刺されて失血死している夫婦を発見。いずれも刺し傷は複数あり、抵抗した際にできる傷も見つかった。重軽傷を負った長男と次女は「犯人は1人で、帽子とマスクをつけた男」と証言。茨城県警は殺人事件と断定し、捜査本部を設置した。

金品を物色した形跡がなかったことから、当初は恨みによる犯行とみて夫婦の人間関係を調べた。また、現場の一戸建ては周囲を木々が囲んでいて、一見すると奥に家があることがわかりにくいため、犯人は周辺に土地勘がある人物の可能性が高いとみられた。

しかし、家族にトラブルの情報はなく、捜査は難航した。近隣住民から「事件前にマスクをした不審者を付近で見た」という目撃証言が寄せられてはいたが、犯人特定の決め手とはならなかった。

地元の防犯協会などが100万円の懸賞金を出し、事件発生から1年を前に情報提供を呼びかけるポスターを公開したが、有力な情報は寄せられなかった。

過去の犯歴から容疑者を特定

岡庭由征/茨城一家殺傷事件
連行される岡庭由征

事件から1年2か月後となる、2020年11月19日の早朝4時半頃、埼玉県三郷市鷹野4丁目の民家に4台ほどの護送車が停まった。そのうちの1台には「高圧ガス」と書かれていて、ただならぬ雰囲気を出していた。

実は、警察はこの家に住む岡庭由征(当時26歳)を容疑者として特定し、5月頃から24時間体制で容疑者の動きを監視していたのだ。その結果、岡庭が大量の危険物を保有していることが疑われたため、このような物々しい動きとなったのだ。

岡庭は高校生だった2011年11月、埼玉県三郷市で中学3年の女子生徒を刃物で切りつけ、2週間後に千葉県松戸市で小学2年の女児にも同様の被害を与えた事件で逮捕されている。被害者は大怪我を負い、岡庭は殺人未遂などの罪で起訴された。2つの現場は約2kmしか離れていなかった。

夜明け前の午前5時47分頃、30人以上の捜査員や機動隊、特殊部隊が岡庭宅前に集結すると、10分後に突入。なかにはガスマスクを装着した部隊もいた。その約5分後、岡庭が捜査員に付き添われて自宅から出てくると、そのまま車で埼玉県警吉川署に向かった。

翌20日、岡庭は「自宅に硫黄約45kgを貯蔵し、危険物の取り扱いに関する基準に反した」として、三郷市迷惑防止条例違反で逮捕された。

通常、この条例違反で逮捕されることはないため、岡庭の身柄を確保するための別件逮捕だったといわれている。

さらに拘留期限が迫った2021年2月15日、岡庭は「警察手帳につける記章」を偽造した公記号偽造容疑で再逮捕された。

一家殺傷事件で逮捕

岡庭の自宅からは、複数の刃物やスマートフォン、パソコンなど約600点を押収していた。ほかにも、以下のような複数の状況証拠を確認できたことから、2021年5月7日、茨城県警は岡庭を小林さん夫婦殺害で逮捕した。

  • 事件前に現場周辺を撮影した写真を所持していた
  • 次女にかけた催涙スプレーと同じ成分を含む「熊よけ用スプレー」を購入していた
  • ”現場に残された足跡” と同じ種類の靴の購入履歴があることが判明
  • 事件について頻繁にネット検索した履歴があった

岡庭は取り調べにおいて容疑を否認していたが、やがて黙秘に転じた。同月29日には、長男に対する殺人未遂容疑と次女への傷害容疑でも再逮捕され、6月7日から3ヶ月間、鑑定留置された。そして精神鑑定の結果、「刑事責任が問える」と判断されたことから、岡庭は2021年9月17日に起訴された。

立証は困難

逮捕・起訴まではこぎ着けたが、決定的な証拠が見つかったというわけではなく、動機にしても不明なままだった。

  • 犯行に使用したとみられる催涙スプレーや現場の足跡と同じ種類の靴は、購入履歴はあるものの、捜査で見つかっていない
  • 事件当日、現場にいたことを直接裏付ける証拠はない
  • 岡庭と被害者家族との接点は判明しておらず、一家を襲った動機がはっきりしていない
  • 岡庭の自宅(三郷市)と現場は直線距離でも約40kmあり、両者の生活圏が重ならない
  • 岡庭は自転車で被害者宅を訪れたとみられるが、被害者家を狙った理由が不明

岡庭由征の生い立ち

少年時代の岡庭由征(岡庭吾義土)/茨城一家殺傷事件

岡庭由征は1994年12月16日生まれで、出生時、”吾義土(あぎと)” と名付けられた。家族は両親と3歳下の弟の4人だが、父方の祖父母も同じ敷地の母屋で暮らしていた。

「吾義土」という名前は、母親の兄が名付けた。アニメのキャラクターにあやかり、画数も41画と縁起のいい数字だったから、というのが命名の理由だという。

岡庭家は地元の名士で、父親は登記測量事務所を経営していた。岡庭は父親からクレジットカードを与えられ、ナイフなど欲しいものを自由に手に入れられる環境だった。

特に(父方の)祖母は岡庭を可愛がり、わがままをなんでも聞き入れ甘やかしていた。母親はこのことにいい気はしなかったが、立場上、強く言うことはできず、父親も口出しをしなかった。学校以外のほとんどの時間を祖父母宅で過ごす岡庭は、そのせいなのかとてもわがままに育ってしまった。

学校ではあまり目立たず友人も少なかった。中学時代の同級生は、岡庭について「成績も悪いわけではなく、運動もそこそこ。いじめられているわけではなく、空気のように目立たないヤツで、あんまり覚えていない」と、当時の印象を話した。

エスカレートする異常性

少年時代の岡庭由征(岡庭吾義土)/茨城一家殺傷事件
岡庭吾義土

大人しい印象の岡庭だが、彼は小学生の時の頃から虫を殺し、犬や猫を虐待していた。中学生になると動物虐待はエスカレートし、痛めつけるだけでなく、金槌で殴るなどして約5匹の猫を殺している。さらに、その対象は”人間の女性”へと変わっていく。岡庭はインターネットで女性の死体や女性に対する残虐の動画や映画を見て、性的な興奮を感じるようになった。

子どもが動物をいじめるとき 動物虐待の心理学

中学卒業後、通信制高校に進学した頃には、実際に女性に対する残虐行為をしたいと思うようになった。凶器を携帯したうえで ”殺す女性” を物色したり、近所の簡易トイレや車に放火するといった問題行動を起こしている。

また、猫2匹を殺して切断した首をナイフと共に学校に持ちこみ、学内で問題になった。それが理由で、最終的には高校を自主退学せざるを得なくなっている。

このような猟奇性の片鱗を何度も見ているにもかかわらず、両親が深刻に捉えることはなかった。それどころか父親は、岡庭がネットでナイフを購入する際、求められるまま名義を貸していた。

連続通り魔事件の前歴

岡庭吾義土(由征)の通り魔事件記事/茨城一家殺傷事件
高校2年で起こした通り魔事件の記事

通信制高校に通う16歳の時、岡庭はついに女の子を標的にした連続通り魔事件を起こしてしまう。

2011年11月18日、埼玉県三郷市内で下校中の中学3年生の女子生徒に自転車で背後から近づき、無言であごを包丁で突き刺した。さらにその約2週間後の12月1日には、千葉県松戸市内で小学2年生の女児のわき腹を複数回刺して、いずれも重傷を負わせた

12月5日に逮捕された際、岡庭は「歩いている人を殺そうと思った」と供述。自宅からは20本以上の刃物が押収されている。裁判では「殺害して首を持ち帰ろうと思っていた」「女性を襲うのに性的興奮を感じていた」などと、常軌を逸した発言をくり返した。

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岡庭は2012年2月1日から5月21日まで鑑定留置され、5月26日に殺人未遂などの容疑でさいたま家庭裁判所へ送致された。精神鑑定の結果は、社会性の発達やコミュニケーションが困難な「広汎性発達障害」と診断されていた。

その後、7月18日にさいたま家裁から逆送致決定を下され、7月27日にはさいたま地方検察庁により、殺人未遂などの罪で起訴された。2013年3月、さいたま家裁は刑事罰を与えるのではなく、「医療少年院送致で更生を促す」という判決を下した。内容は「5年間程度の処遇を勧告し、23歳でなお精神に著しい故障がある場合には、26歳を超えない期間で継続する」というものであった。

事件は少年院を出た翌年

通り魔事件で押収された岡庭由征のナイフ/茨城一家殺傷事件
当時、岡庭宅から押収したナイフ

2012年6月5日には、さいたま区検察庁が ”息子に刃物を持たせた” として岡庭の父親(当時47歳)も青少年健全育成条例違反容疑で略式起訴し、罰金30万円の略式命令を下した。父親の助けを得ずに購入したものも含めると、岡庭はナイフを71本も所有していた。

被害者への賠償支払いは莫大な額だったという。この事件以降、いつもニコニコしていた祖父は下を向いて歩くようになり、元気だった祖母も寝込んでしまった。

2018年、岡庭は23歳で医療少年院を退院すると、さまざまな影響を考えて現在の ”由征” に改名した。そして翌年、24歳で茨城一家殺傷事件を起こした。2021年5月に逮捕された岡庭は、容疑を否認または黙秘していたが、3ヶ月間の鑑定留置の結果を踏まえ、2021年9月17日、検察は起訴に踏み切った

裁判

公判スケジュールは未定

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