名古屋市西区主婦殺害事件
1999年11月13日、名古屋でひとりの主婦が刺殺される事件が発生した。
主婦は外出から帰宅後、人が訪ねてくるまでの2時間のあいだに殺されたことがわかっている。この事件は物証や目撃証言も多く、容疑者は40~50代女性ということまでわかっていながら、犯人は20年以上も捕まっていない。
2歳の息子の目の前で母親を殺害した犯人は、いったい誰で、動機は何なのだろうか?
事件データ
容疑者 | 当時40~50代の女性 (血液型:B型) |
犯行日 | 1999年11月13日 |
犯行種別 | 殺人事件 |
場所 | 愛知県名古屋市 |
被害者数 | 1人 |
動機 | 不明 |
事件の経緯
高羽悟さんと美奈子さん(当時32)は、不動産会社の同僚として知り合い、そのうち交際するようになった。そして1995年7月7日に結婚、2年後息子を授かり、さらに2年が経っていた。
家族は名古屋市西区のアパートに住んでいたが、新車を買い、家族でディズニーランドに行くなど、幸せの絶頂にあった。
1999年11月13日、この日は土曜日だったが、夫の悟さんは仕事のため出勤した。夫は午前9時頃に家を出る時、妻の奈美子さんから「長男を小児科へ連れて行く」ことを聞いた。実際、9時30分頃に宅配便がきた時も、3階のママ友が10時台に電話した時も、奈美子さんは不在だった。
小児科には午前11時過ぎに受診した記録があった。帰宅したのは午前11時40分頃で、ママ友の夫がそれを目撃している。
事件の発覚
午後2時頃、アパートの大家が高羽さんの部屋を訪れた。大家は、自宅の庭で採れた柿を届けるために来たのだが、応答はなかった。試しにドアを開けてみると、鍵はかかっていなかったようでドアは開いた。
開いたドアから中を覗き見て、大家は驚く。廊下に女性が血を流して倒れているのが見えたのだ。大家は突然のことに慌てふためいたが、気を取り直してすぐに119番通報した。
中の状況は、テレビはつけっぱなし、部屋には2歳の長男が子供用の椅子に座らされていた。テーブルには、ふやけたカップ麺と見慣れない乳酸菌飲料。
大家があたふたしていると、3階から奈美子さんのママ友が下りてきた。事情を聞いたママ友は、長男を預かり、奈美子さんの夫の会社に連絡した。
仕事で外にいた夫の悟さんは、奥さんが「吐血して倒れた」と会社から連絡を受ける。悟さんはとりあえず家に戻ることになった。駐車場から車を出して家に向かっている途中、携帯電話が鳴り奈美子さんが亡くなったと告げられた。
手がかりは多いが・・・
家は大変な騒ぎだった。奈美子さんはうつ伏せで顔を右に向き、左のおでこにコブのようなものがあり、メガネが外れかかっていた。
午後4時頃、鑑識の人に事情を聞くと「首を切って出血している。自分で切ったのか、他人に切られたのかわからない」と言われた。
悟さんは、殺人事件とは思っていなかったので驚いた。美奈子さんはトレーナー、ジーパン姿で室内の廊下から居間に体を投げ出すような形でうつぶせで倒れていた。
その後の調べで、首の傷のほか、手に防御創があることがわかった。犯人が室内を物色した様子はなく、凶器も家からは発見されなかった。だが、犯人は玄関先に血痕と靴跡を残していた。DNA型鑑定から、犯人は40~50代の女性で、血液型はB型。かかとが高い24cmの婦人靴(韓国製)を履いていたこともわかった。
玄関先には、高羽家では飲まない乳酸菌飲料がこぼれていた。その飲みかけのパックが、長男が座っていたテーブルの上に置かれていた。製造番号から、約35キロ離れた西三河地区で販売されたものと特定されている。
テーブルには、ふやけたカップ麺も置いてあった。このことから、午前11時40分に帰宅した奈美子さんは、カップ麺にお湯を注ぐなどして、おそらく12時ぐらいまでは無事だったと思われる。
大家が訪問したのは午後2時頃なので、2時間の間に何かが起こったのだ。
公園まで続く血痕
犯人は、もみ合った際に手に怪我をしたとみられ、高羽さん宅で手を洗った形跡もあった。血痕はアパートの通路や階段、駐車場に続き、約500m離れた稲生公園付近まで徒歩で逃走していたことが判明している。
この公園では、手を洗った痕跡もみつかっている。その後、北区方面の住宅街に逃げ込んだとみられ、途中で血痕が途切れていた。
2人の目撃者
目撃者は2人いた。1人は「上半身はピンクの服だった」と証言、もう1人は「上下とも黒い服を着ていた」という。 その女は片手を握るように押さえて立っており、稲生公園前の道路で、車が途切れるのを待っていたそうだ。2人の目撃証言は服装が違うが、人相は一致していた。
ほかにも証言がある。アパートの住人が午後1時までの間に、高羽さん宅で大きな物音を聞き、その直後にアパートの階段を人が駆け下りる足音を聞いたという。これが事件に関係あるとすれば、犯行は奈美子さんが帰宅してから午後1時までの間に起きた可能性が高い。
その後、ママ友は用事があったため奈美子さんに12時30分~午後2時の間に3回電話を掛けたが、いずれも応答がなかったという。
警察は怨恨の線から捜査を開始、夫婦の交友関係を徹底的に洗った。だが、夫婦を恨む人はまったく浮上せず、不審な人物もいなかった。
名古屋では、1988年にも夫の出勤中に若い妊婦が殺害された名古屋妊婦切り裂き殺人事件が発生している。お腹にいた胎児は犯人によって取り出されていたが、奇跡的に一命を取り止めている。
この事件は未解決のまま時効を迎えた。
捜査の方向性が間違ってる?
事件から21年後の新証言
事件から21年が経った2021年3月、テレビで新証言が紹介された。
当時、高羽さんの隣に住んでいた女性が、CBCテレビの取材に応じ、アパートで怪しい女を見たと話したのだ。この女は、あいさつしても会釈も返事も返さず、にらむような感じで印象が悪かったという。目はキツい感じ、髪型はソバージュのようなウェーブがかかっていて、似顔絵と似ていたそうだ。
女性は以下のように話した。
「目撃したのは事件の1週間ほど前で、朝の8時10分か20分頃、高羽さん宅の前で奈美子さんと話し込んでいた。女は銀色のアタッシェケースを持っていたので、化粧品か何かのセールスの人かなと思った。アタッシュケースを扉が閉まらないように置いて、奈美子さんとずっとしゃべっていた。」
母親の詐欺事件が関係してるのか?
名古屋市西区稲生町5丁目地内における主婦殺人事件|愛知県警察
高羽夫妻が結婚して約1年後、奈美子さんの母親が薬事法違反容疑で逮捕された。
母親は健康食品会社の販売員として、「がんに効く」などと薬効をうたい、無許可の清涼飲料水20数本(約94万円分)を販売した疑いが持たれていた。
新聞に顔写真も出るほどだったが、不起訴処分になったのか数日で留置場を出てきたという。その後、名古屋に居づらくなり、母親は奈美子さんの従兄がいる北海道へ移り住んだという。
ただ事件の翌年春からは、美奈子さん一家は名古屋で母親と同居する予定だった。そのため、35年ローンで新築マンションも購入。事件の10日前には、奈美子さんと母親がそのモデルルームを下見に行っている。そしてこの頃すでに、役所から届く母親宛ての郵便物を受け取るため、表札と郵便ポストに母親の名前を書き加えていた。
根拠はないが、「犯人はこの母親の詐欺被害者なのではないか?」という意見もネットでは見られている。確かに被害者感情としては、「娘一家としあわせに新築マンションに住むのは許せない」というのはあり得るかもしれない。
フジテレビの大罪
2016年2月半ばにフジテレビ「最強FBI緊急捜査! 日本未解決事件完全プロファイル」という番組内で、被害者の奈美子さんの性格に問題があるかのような演出がされました。これは遺族を深く傷付けたようです。
しかし、別の媒体が改めて取材したところ、まったく違う人物像が浮かび上がったのです。
どちらも知人や友人に対するインタビューの内容で、単に奈美子さんに対する個人の感想に過ぎません。両方の意見に共通するのは、奈美子さんは「明るくて活発な人。はっきりものを言う人」という点です。
そういう性格が好きな人もいれば、苦手な人もいます。それぞれの立場で、人物評なんて180度変わります。
大手メディアは、特定の個人に先入観を持たせるような報道はすべきでない、と思います。人物像を報道したいなら、その人のエピソードを紹介するだけでいいのです。
「〇〇が起こった時、XXさんは△△という行動をした」という内容であれば、それをどう捉えるかは視聴者の自由です。
正しい行動をした人に対して「善人ぶるところがある」という評価をする人は、一定数いるものです。「その部分だけ」を報道すれば、それは偏向報道といわれても仕方ないでしょう。
面白可笑しくするのはバラエティー番組の仕事で、報道番組では絶対NGです。
結局フジテレビはこの件に対して謝罪しましたが、謝って済む問題ではないのです。