めったに起こらないような凶悪犯罪が、同じ時期に発生した事例があります。
ひとつは、女性犯罪者による2件の連続不審死事件、もうひとつは愛犬家が次々と行方不明になった2件の連続失踪事件。
あまりにも内容が似通っているために、当時、世間はどっちがどっちだかわからなくなるような混乱がありました。不思議なシンクロニシティ―が起こった感じです。
ちなみに、ここに出てくる4人の犯罪者は全員死刑となっています。
1.連続不審死事件|木嶋佳苗と上田美由紀
2009年頃、男性が連続不審死する事件が、相次いで発生した。
首都圏で起こった首都圏連続不審死事件と、鳥取県で起こった鳥取連続不審死事件である。
30代半ばの太った女性が、交際相手の男性から金を巻き上げ、自分が不利になると見るや殺害を実行する、そんな事件だ。この2つの事件は、驚くほどよく似ているのだ。
殺害にあたっては、どちらも事前に睡眠薬を飲ませて体の自由を奪っている。実際の殺害方法は、木嶋が練炭を使っての一酸化中毒を狙ったのに対し、上田は水死させている。逮捕時、2人とも本命の男性と同棲をしていた点も同じである。にもかかわらず、他の男性を毒牙にかけ続けていた。
そして、2人とも無罪を主張し、反省はしない。そして手紙を書けば、達筆な字に驚かされる。
決定的に違うのは、木嶋は上品なセレブ気取りであったのに対し、上田はざっくばらんで粗暴なタイプである点だ。真逆な2人が、同じような事件を起こしている点も興味深い。
木嶋はこのセレブ感と「女」であることを武器に、男性をとりこにしていた。対する上田は、アメとムチをうまく使っている。暴力をふるう一方で、自分の子ども達に『お父さん』と呼ばせて甘えさせ、男をその気にさせていた。
出会い方も少し違う。木嶋はインターネットの婚活サイト、上田は主に勤務するスナックの客だった。これは土地柄も関係しているかもしれない。やはりインターネットで出会うという方法は、都会のほうが活況があり有利である。地方では上田の出会い方のほうが手堅いだろう。
もうひとつ違うのは、上田が殺害した男性のひとりは、交際がらみではなく、電気製品の多額の支払いを逃れるため経営者を殺害したものだった。上田は2人の殺害で立件されたが、疑惑は他に4件もあり、そのうち3人が交際相手である。
警察が早い段階で自殺などと断定したため、あとから立件できなかったという事情がある。
木嶋佳苗 | 上田美由紀 | |
---|---|---|
当時の年齢 | 30代半ば | 30代半ば |
体型 | 太っている | 太っている |
被害者 | 交際相手 | 交際相手 |
出会う方法 | 婚活サイト | スナックなど |
殺害準備 | 睡眠薬 | 睡眠薬 |
殺害人数 | 3人* | 2人* |
殺人で逮捕 | 2010年 | 2010年 |
罪状認否 | 無罪主張 | 無罪主張 |
判決 | 死刑 | 死刑 |
金の使い道 | 浪費 | 浪費 |
人物像 | 上品 | 粗暴 |
字 | 達筆 | 達筆 |
本命の男 | あり・同棲中 | あり・同棲中 |
人間は、基本的には女性には警戒を解くものである。富山・長野連続殺人事件でも、若い女性2人が声をかけてきた女の車に乗ったばかりに、殺害されてしまった。これが男の車なら、彼女たちはおそらく乗らなかっただろう。女であることは犯罪する側からすれば、かなり有利なことなのだ。
そして女性犯罪者は睡眠薬を飲ませることで、男より優位に立てることを知っている。
2.愛犬家連続殺人事件|関根元と上田宜範
1993年頃、愛犬家が次々と失踪する事件が起こった。大阪愛犬家連続殺人事件だ。犯人の上田宜範は犬の訓練士を名乗り、訓練所の共同経営を持ち掛け、愛犬家から金を騙し取っていた。被害者達には長野県にある建設予定地を見せることで信用させ、嘘がバレそうになると犬の安楽死に用いる筋弛緩剤を使って殺害した。
この事件に世間の注目が集まる最中、埼玉県でも同じような事件が発覚し、さらに世間は驚いた。埼玉県で発生した埼玉愛犬家連続殺人事件である。
関根元はシベリアンハスキーを日本に流行らせた立役者として名を知られていたが、この犬のつがいを法外な値段で売り付けていた。生まれた子犬は高値で引き取るという約束は守られず、揉めそうになると犬の安楽死用の筋弛緩剤を使って殺害を繰り返した。
金を巻き上げた口実はそれぞれ違うが、バレそうになると殺害するのは同じで、殺害に筋弛緩剤を使う手口も同じである。ただ殺害後の遺体は、上田が訓練所予定地に埋めたのに対し、関根は徹底的に解体し、骨も粉になるまで焼いた。この不可視状態にすることを「ボディーを透明にする」と表現したことが当時話題になった。そのため、遺体という物的証拠がない状況での立件は、相当な困難を強いられた経緯がある。
関根は4人、上田は5人殺害したために、判決は2人とも死刑だった。ただ、関根の周辺には他にも行方不明者が複数人いるが、”ボディーを透明にする” 手口のせいで、立件できなかった。